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森保監督「2次予選は甘くない」で総動員も、三笘薫はケガで離脱。久保建英らは”アジア”を戦うべきか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

「(W杯アジア)2次予選はそんなに甘くない」

 森保一監督は、11月の代表メンバー発表で言い切った。「コンディションを考慮した招集を考えるべきだ」という世間の論調を一蹴した。明らかなケガを抱える選手以外、体が重そうでも、故障上がりでも、すべて招集し、総動員をかけたのである。

「同じ経験を共有しながら前進することによって、チームの結束力はより高まる」

 指揮官はそうも説明を加え、ヨーロッパカップも並行して戦っている選手たちも構わずに招集した。

 しかし代表合宿で帰国した三笘薫が、練習に参加することもなくケガで離脱することが発表されている。本人は「W杯予選」と気負い、無理をしたのだろう。検査で判明したというが、直近の試合でも一見して体は重そうだっただけに、甘い見通しの結果だ。

「来たくない選手は来なければいい」

 一方で、堂安律は「招集の是非」についてはっきり答えている。それも一つの本音だろう。選手の代表への想いは、そこまで強いのだ。

 だからこそ、制御するのは首脳陣であるべきで・・・。 

 欧州最高峰のチャンピオンズリーグ、あるいはヨーロッパリーグを、プレミアリーグ、ラ・リーガ、ブンデスリーガ、セリエAなどと並行して戦う選手を2次予選で疲弊させるべきなのか?

サッカーをする状況でない国々

 11月16日、大阪。FIFAランキング18位の日本は、同158位のミャンマーと戦う。W杯予選の幕開けだが、ミャンマーはクーデターによる軍事政権下の政情不安で、とてもサッカーに専念する状況ではない。言っては悪いが、同じ土俵で戦うに値しない相手だ。

 ミャンマー戦後、森保ジャパンは11月21日、同ランキング92位のシリアと中立地サウジアラビアで戦うことになっている。シリアもサッカーをしている場合ではない。長く内戦が続き、外国が干渉し、民族問題が絡み合い、多くの難民が出て、人々の生活は窮している。

 また、同じ組で来年3月に対戦予定で115位の北朝鮮も、独裁政権特有の不穏さに包まれる。アジア大会でのプレーぶりの悪辣さは、まだ記憶に新しい。相手にけがを負わせることも辞さない行為の数々は、プロサッカーのレベルに達していない選手、チームだった。

 これが2次予選の相手だ。

 本当に、アジアは甘くないのか?

「アジアチャンピオンズリーグ(ACL)でも、Jリーグのクラブは苦戦しているのだから、念には念を入れるべき。アジアも何が起こるかわからない」

 そんな意見もある。たしかに、今シーズンもJリーグのクラブではグループリーグで優位に戦いながらも、拮抗した攻防を繰り広げている。不測の事態は起こり得る。韓国、中国の有力外国人選手を加えたクラブには苦戦し、警戒は必要だ。

 しかしタイ、ベトナム、フィリピンのクラブはどうにかグループリーグへ勝ち進んでいる状況。そしてミャンマー、シリア、北朝鮮のクラブは、ACLでJリーグのクラブと同じ土俵にも立っていない。

「甘くない」

 この戦いが甘くないなら、W杯ベスト8にどうやって辿り着くのだろうか?

 そもそも、サッカーは大番狂わせが起きやすいスポーツである。石橋を叩いて渡る、という慎重さも大概にすべきだろう。この2次予選を主力抜きでも勝ち上がることができないとすれば、指揮官の力量が問われる。

 2026年W杯、実はアジア枠は4・5国から8・5国に倍増している。予選突破に向け、かなりハードルは下がった。2次予選だけでなく、最終予選も主力は無理に呼ぶべきではない。

「一戦一戦勝利を目指す」

 森保監督はそう言って、頑なにフルメンバーで慎重に勝ち点を積み上げるつもりだろうが…。

代表は次のフェーズに入るべき

 カタールW杯、森保ジャパンは最終予選で苦しんだことで開き直り、本大会では極端な”弱者の兵法”にスイッチし、功を奏したと言える。あえて相手に主導権を渡し、ゲリラ戦のように嫌がることをしながらゴール前は堅く守り、ミスを突いて仕留める、徹底的な受け身の戦法だった。筆者も、「森保監督の性格だったら、弱者の兵法しかない」という論調で書いた。

https://shueisha.online/sports/75400

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/841e106455b863a51993f8500148c2c167d2f3c3

 システムも、キーマンも、ここにあらかじめ書いた通り、それで収めた”成功”(ドイツ、スペイン戦での勝利という結果)は”奇跡”ではなかった。

 しかし、これは多分に運に頼ったところがあり、論理的に勝利を収めたわけではない。多分に試合の流れや個人の好不調など、不確定の要素が味方したもので、「神風が吹いた」結果だった。鎌田大地を筆頭に欧州で研鑽を積む選手たちが時間帯で攻撃的なフェーズを作り出し、どうにか流れを勝ち取ったもので、それを同じように期待するのは、もはや「神頼み」と言える。

 代表は次の段階に入るべきだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/47dc811c5340913bb46eae4f3bd7861482bb7ae8

欧州で名監督に啓発される日本人選手たち

 今や、欧州のトップレベルで活躍する日本人選手が数多く出てきた。

 彼らはレアル・ソシエダ(久保)のイマノル・アルグアシル、アーセナル(冨安健洋)のミケル・アルテタ、リバプール(遠藤航)のユルゲン・クロップ、ブライトン(三笘)のロベルト・デ・ゼルビ、スポルティング・リスボン(守田英正)のルベン・アモリム、ラツィオ(鎌田大地)のマウリツィオ・サッリなど欧州でも脚光を浴びる”攻撃的サッカー”を信奉する指揮官の采配で啓発され、戦術的にも成熟しつつある。率直に言って、代表よりも高いレベルのチームの仕組みを日々経験し、厳しい試合を戦っている。

 とりわけ、久保の台頭は目覚ましい。9月にはラ・リーガでジュード・ベリンガムを抑えて月間MVPを受賞。11月には最速でCLベスト16進出を決める原動力になった。今や守備でもスイッチが入れられ、簡単にはボールを奪われないし、2,3人を引きつけ、決定的な仕事ができる。彼自身が戦術を動かしているほどで、それをトップレベルで続けているのだ。

 森保監督は選手の心身を消耗させず、最大限に生かすことだけを考えるべきだろう。

 そもそも日本人選手はそれぞれが補完し、高め合うのを得意としている。過去のW杯での成功は好例。2010年南アフリカW杯、2018年ロシアW杯、そしてカタールW杯と、ベスト16に進んだチームはピッチに立った選手主導の印象が強い。戦い方、もしくはピッチに立つ選手、あるいは監督まで、直前になってがらりと変わっているのだ。

「長い時間で作り上げた」

 そう思っているのは監督など首脳陣だけだ。

 カタールW杯も、実際は最終予選で編み出した戦い方を採用したわけではなかった。

森保ジャパンの新しい招集の形

 平たく言えば、森保ジャパンは代表メンバー選出基準を見直すべきだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0c2fa96f83a605c52042bcb61699aee6472bb358

 少なくとも2次予選では、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグを並行して戦う選手を呼び戻す必要はない。来年3月はシーズンが佳境に入る中、けがは増えてくるはずだ。

「予選で成長できる」というのは、今や過去の話だろう。 

 欧州や南米だったら、同じようなレベルの相手と熾烈に戦い、そこで一体感や成長も期待できる。しかしアジアの格下代表との戦いは、苦しみを共有できるが、しのぎを削って力を付けられる敵ではない。

「負担はあるけど、これが代表」

 そう言い切る選手もいるし、それも事実だろう。その気概は称えるべきかもしれないが・・・。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a632bcd172499965c4a800e580575d73a499180e

 ちなみにEUROもコパアメリカも、シーズン後に開催されるだけに、選手の負担も少ないが、アジアカップは真っ最中に開催される。招集問題は必ず再燃する。所属クラブでカップ戦を含めて最大で7,8試合欠場を余儀なくされ、ヨーロッパカップの再開も控えるからだ。

 選手が「できる」「やらせてくれ」と言っても、無理をさせないようなマネジメントが問われている。明らかに体が重い選手を招集。大きなけがにつながったら、元も子もないからだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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