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森保ジャパンはカタールW杯で下したドイツとどう戦うべきか?久保、三笘、鎌田が出している解答

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 2022年11月23日、ハリファ・インターナショナル・スタジアム。カタールW杯での日本代表はグループリーグ初戦、かつて4度も世界王者に輝いたドイツ代表を2-1で打ち破っている。粘り強く守り、天運にも恵まれながら(ドイツが悉くチャンスを外した)、終盤に入って一気呵成の総攻撃で、奇跡的な逆転勝利に成功した。

 日本はドイツになぜ勝てたのか?

 その答えは、9月9日に行われるドイツとの再戦に向けてもヒントになるはずだ。

日本がドイツを倒せた理由

 カタールW杯のドイツは、過去に「ゲルマン魂」と畏怖されたドイツの姿ではなかった。大会直前のネーションズリーグでも、勝ち切れない試合が続いていた。優れた選手は多いのだが、チームとしては波が激しく、とりわけ軸になるべきゴールゲッターの不在が影を落とし、優勝候補からも外されていたのだ。

 結局、その不安が的中する形で、日本戦は数多のチャンスを作りながら呆れるほどに外し、反撃に浮足立って敗れたのである。

「前半はひどくて。過去最低の試合だったというか、このままだったら後悔する内容でした」

 鎌田大地は試合後のミックスゾーンに出てくると、どこか浮かない顔でそう言った。高揚感に包まれたチームのなかで、異彩を放っていた。逆説的に、それが奇跡を起こした理由を説明していたとも言える。

「前半は、間違いなく相手をリスペクトしすぎていて…。みんな、プレーすることを怖がっていたというか、せっかくボールを奪っても、リスクなしで蹴ってしまって、ひとつつなげれば、もっとチャンスになったはず。自分たちが下がりすぎ、後ろの人数が余ってしまい、(プレスも)はまっていなかった。自分もほとんどボールを触れなかったし、どこにポジションを取っても(状況を)変えられなくて、臆病だったし、あのまま終わるのは恥ずかしいと思っていました」

 前半、サンドバックになっていた日本は、後半から能動的なサッカーを取り戻し、流れを変えられたのだ。

日本には能動的なサッカーで勝利できる選手がいる

 日本はシステム変更で前線から積極的なプレスをかけ、ようやくカウンターでゴールを脅かすようになる。そして後半途中に投入された三笘薫、南野拓実、堂安律は、強豪ドイツの気迫に呑まれていなかった。それぞれが局面で小さな勝利を重ねると、ドイツを消耗させることに成功。とりわけ、三笘は左サイドの1対1で優勢を保つことによって、全体を有利にしていた。

 日本はボールプレーの時間を増やし、攻撃の活路を見出すことで、ドイツを倒したと言えるだろう。

 守りに入ったままでは、敗れていた公算が高い。追加点を決められなかったのは、あくまで僥倖に過ぎなかった。その運に縋り、攻める選択肢を採らなかったら、奇跡は起こせなかったはずだ。

 実は、守り勝ったわけではない。

 つまり、今回のリターンマッチで選ぶべきは、前回の後半途中からの戦い方である。

 日本は亀のように守りを固めなくても、十分にドイツにダメージを与えられる。

 鎌田(ラツィオ)、久保建英(レアル・ソシエダ)、上田綺世(フェイエノールト)、旗手怜央(セルティック)、冨安健洋(アーセナル)などはチャンピオンズリーガーである。三笘薫(ブライトン)は今やプレミアリーグで屈指のアタッカーで、伊東純也(スタッド・ランス)は開幕からゴールしている。他にも守田英正(スポルティング・リスボン)、堂安(フライブルク)が実績を積み、遠藤航(リバプール)はかつての欧州王者の中盤に君臨しているのだ。

ドイツとどう戦うか

 W杯で日本に負ける”屈辱”を味わったドイツの選手たちは、来年には欧州選手権の開催国にもなるだけに、鎧袖一触の勢いで襲い掛かってくるかもしれない。

 ドイツは日本と同じく、中盤からアタッカーに強力なメンバーをそろえる。ヨシュア・キミッヒ、イルカイ・ギュンドアン、ゴレツカ、ジャマル・ムシアラ、レロイ・ザネ、ニャブリなど多士済々。世界でも屈指だろう。

 ただ、依然としてストライカーの問題は解決していない。また、ディフェンスにも粗が目立つ。直近4試合はベルギーに本拠地で2-3と敗れ、ウクライナには3-3でドロー、ポーランドには敵地で1-0と黒星を喫し、コロンビアにはホームで0-2と敗れている。

 日本は敵地戦だが、真っ向勝負で挑むべきだろう。

 ボールを握れる選手を優先に用い、敵陣でプレーする時間を増やし、崩しにかかる。鎌田、久保、三笘の3人はキーマンになるだろう。そこに上田、旗手、堂安、伊東をどう組み合わせ、遠藤、守田が攻守を安定させられるか。冨安が万全だったら、バックラインではどこであれ、番人になるだろう。失点を浴びる可能性は高くなるだろうが、得点する可能性も高くなるはずだ。

 堅守速攻で挑む場合、相手にペースを渡すことになる。失点の確率を減らす一方、受け身に回らざるを得ない。「相手が外す」のを祈り、カウンター一発に懸け、偶然性の強い展開にかけることになるだろう。これぞ弱者の兵法で、森保一監督は石橋を叩いて渡るタイプだけに、それを好むが…。

 はたして、それは最善の策で次につながるのか?

 鎌田、久保、三笘は、欧州リーグで開幕から暴れている。彼らは、「ドイツが相手であっても脅威となる」という解答を出している。その攻撃力を最大限に生かす布陣で、ドイツを叩きのめすことができたら――。日本は強者に進化を遂げる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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