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森保ジャパンは希望を託せるのか?三笘薫の孤立、鎌田大地の不調、古橋メンバー外、久保建英の起用は?

小宮良之スポーツライター・小説家
三笘薫は孤立が目立った(写真:ロイター/アフロ)

 3月24日、国立競技場。森保ジャパンは、ウルグアイと1-1で引き分けている。南米の強豪を相手に負けなかったわけで、結果としては悪くない。カタールW杯後、吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹などベテラン勢を代表歴の少ない選手に入れ替えたことを考えたら、上々とも言えるのだが…。

 サッカーの内容としては退屈で、工夫も乏しかった。

「想定外のサプライズは、自分が思った以上に緊張したこと」

 試合後、会見の最後で森保一監督は冗談を飛ばしたが、あまり笑えなかった。

 厳しい言い方をすれば、希望を託すような船出とは言えない。

三笘薫の孤立

 前半、日本はボール支配率では互角だったが、まともに攻められなかった。ボールを回していたのは、ほとんどが自陣内。これでは、「攻めていた」ことにはならない。相手のプレスに対し、ろくにビルドアップできなかった。

 とにかく、つなぐためのパスが目立った。お互いがパスを引き出し、斜めにボールを入れる、斜めに人が走る、といった連動は起きなかった。攻撃はカウンター一辺倒。時折、三笘薫が左サイドを単騎で突っ切ってゴール前に迫ったが、単発に終わっている。

 スタジアムで、最も大きな歓声を受けたのは、プレミアリーグで無双を続ける三笘だろう。彼にボールが渡るたび、熱気が高まった。たしかにボールを受け、簡単に入れ替わって、トップギアに入る姿は並外れていた。ドリブラーとしては、タイプは違うがキリアン・エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオールに追随する存在だろう。

 しかし、高い位置でボールを受けられていない。その「仕組み」がチームにないのである。自陣から長い距離を走破するしかなく、孤立無援だった。

 チームとして、グループとして、それぞれが何をすべきか。その仕組みの弱さに問題を抱えているのだ。

左サイドバックの人選と鎌田の不調

 ウルグアイ戦、個人がどうにか戦術を回していたが、その個人が戦術を駆使できないと、途端に目を覆うノッキングを起こした。

 例えば、長友の後釜として左サイドバックに抜擢された伊藤洋輝は、全くかみ合っていなかった。三笘との間合いの悪さは、カタールW杯のコスタリカ戦の失望をフラッシュバックさせた。ポジション的な適性さえ疑ってしまうほどだ。

 伊藤は中にポジションを取って、プレーメイクもするようにコーチ陣に言われているという。しかし、効果的ではない。そもそも、その指示は付け焼刃感は否めず、本人も困惑しているのか、パスミスを繰り返し、判断も悪かった。守備では単純にヘディングで跳ね返すプレーは持ち味の一つだが、サイドバックは不慣れで、ポジション的優位を許した。

 日本の左サイドには常に綻びが生まれていた。

 失点シーンも、マキシ・ゴメスの突破を三笘が防げず、左に釣り出された遠藤航も振り切られる。そのクロスがゴール正面のフェデリコ・バルベルデへ。ミドルを得意とするバルベルデのボレーはバーを直撃後、さらにヘディングで押し込まれた。

 こうした展開に、森保監督は何ら修正を加えられていない。

 深刻なのは、鎌田大地のパフォーマンスだろう。彼自体の能力の非凡さは改めて示した。三笘のカウンターを発動させるパスだったり、菅原由勢への的確な展開でチャンスを作ったり、味方の連係の渦を作って、堂安律への垂涎のフリックパスもあった。これだけのサッカーセンスの持ち主は希少だ。

 しかし、鎌田はチームの中ではほとんど機能していない。トップの一角でのプレーを命じられたことで、ボールに触る回数が少なすぎた。近い距離に味方が少なく、インスピレーションを発揮できなかった。実際、中盤に落ちた時の方が、好パスを配給していた。

 チームの仕組みが脆弱なだけに、鎌田にまで有効なボールが辿り着かないのだ。

浅野のトップ起用

「ボールを持つ時間を増やすサッカーを」

 森保監督はカタールW杯後に語ったが、本気なら前線の選手起用は再考の必要がある。

「森保監督の申し子」と言える浅野拓磨は、ウルグアイ戦は決定機を逃しただけでなく、ポストワークも失敗を繰り返した。前線でボールを収められないことで、必然的に攻撃の位置が低くなるし、バリエーションが少なくなる。カウンター主体になるのは必然だ。

 浅野はW杯で結果を残したストライカーだけに、先発は勝ち取ったものと言える。しかし、ボールを持つ時間を増やすサッカーをするなら、ファーストチョイスではない。人選から矛盾している。

 そもそも、セルティックでゴールを量産している古橋亨梧を代表メンバーにすら選んでいないのは違和感がある。代表は所属クラブでの成績によって、基本的には選ばれるべき。監督の嗜好はあってしかるべきだが、原則を守らないと、公平さもなくなる。

「リーグのレベルが…」

 それは傲慢な言い訳だろう。セルティックは名門で、今シーズンもチャンピオンズリーグに出場している。リーグレベルを云々するなら、Jリーグから呼ぶことはできないし、前田大然を選んでいるだけに…。

 新しく再出発するなら、欧州でゴールゲッターとして活躍する選手を生かす方策にトライすべきだ。

わずかな希望

 小さな希望としては、後半投入した伊東純也、上田綺世、田中碧がチームを好転させたことだろう。

 伊東は持ち前の縦への突破で、単純にウルグアイを脅かしていた。上田も伊東との連係の良さを見せ、ワンツーやディフェンスを引きずるプレーで好機を演出。田中も全方位的に、質の高いパスを繰り出していた。

 しかしゲームがオープンになった状態だけに、個人のはつらつさが表に出ただけとも言え…。

 チームとしてポジティブな側面を探すなら、新しいメンバーが多かったバックラインが失点してからも落ち着いていた点だろう。前に遠藤という頼りになるボランチがいたのもあるが、動揺が少なかった。追加点を浴びなかったことが、同点につながったと言える。板倉滉、瀬古歩夢、菅原のプレーは、今後も期待が持てる。GKシュミット・ダニエルも、スローイング技術とビジョンの良さを見せ、「ボールプレー」の時間を多くするなら最善の選択だ。

 コロンビア戦、森保ジャパンはチームとしての仕組みを整え、選手の良さを引き出すことができるのか?

 ウルグアイ戦を欠場した久保建英の起用も注目される。コンディションの問題で「先発はない」と森保監督は明言しているが、”隔離”の謎も含めて招集した問題にもなりかねない。「ボールを持つ時間」を考えるなら、鎌田、堂安などと併用するべきだろう。レアル・ソシエダで証明しているように、久保は攻守においてチームをけん引できる。体調を崩すリスクをかけ、日本に戻ってきているだけに…。

 新しく選手を入れ替えただけでは、リスタートにはならない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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