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カタールW杯、森保ジャパンが欧州遠征で試すべきは?ポスト長友と長谷部健在と攻守の「増強」

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 今年11月のカタールW杯、森保ジャパンは分が悪い戦いになるだろう。ドイツ、スペインとは実力差が歴然。史上最悪の組み合わせと言える。

 守りを前提にした戦いを余儀なくされることは間違いない。

 しかし人数を懸けて守るだけで、守り切れるものではないだろう。早晩、その程度では突き崩される。なぜなら、強豪クラブに所属する老練な選手たちは、人海戦術など打ち破ることは日常茶飯事だからだ。

 それでも、日本は守勢を覚悟せざるを得ない。防御線を構築し、ギリギリで守る。一方で、機動力を生かして敵陣に攻め寄せられるか。それもスピードに頼った勝負は通用せず、「個」で仕掛け、崩せるアタッカーが必要だが…。

 9月15日、欧州遠征の日本代表メンバーが発表される。23日にアメリカ、27日にエクアドルと対戦予定。W杯での勝ち筋は見えるのか?

オーソドックスな布陣の4-2-3-1

 まずは守りを厚くする必要があるが、各ラインを補強する必要がある。FW、MF、DF、それぞれで防御線を張る。突破されても挟み込み、ダメージを最小限にする。

 そこで、4-2-3-1を提唱したい。

 4-3-3でアジア予選を勝ち抜いたが、世界のトップには十中八九、打ち負かされる。4-3-3というシステムは構造上、相手を戦力で上回るか、拮抗している時に機能する布陣だからである。守備的に戦えばディフェンスが厚みを増し、攻撃的に戦えば手数を増やせるわけで、前者はアトレティコ・マドリード、後者はバルサが採用してきたが、運用が難しい。特に中盤でのプレーエリアが混乱しがちで、相手の力が上の場合、綻びを作られやすく、弱点が見えやすいのだ。

 オーソドックスな4-2-3-1は、FW、MF、DFで防御ラインを敷き、左右のサイド、中央とで侵入路を封鎖できる。塹壕に守られた「野戦城砦戦」の感覚か。守備の形が作りやすいだけでなく、攻撃にもバランスよく打って出られる。

ポスト長友、長谷部の健在

 一方、5-4-1のような布陣もバリエーションで持つべきだ。

 右から酒井宏樹(浦和レッズ、ケガの具合は心配だが)、冨安健洋(アーセナル)、吉田麻也(シャルケ)、板倉滉(ボルシアMG、ひざ靱帯負傷で欧州遠征は絶望的。W杯に間に合わない場合はシュツットガルトの伊藤洋輝か)、中山雄太(ハダースフィールド)or旗手怜央(セルティック)というバックラインを組むことができたら、なかなか堅牢である。スペースと人を抑えた守りで、高さにも屈しない。セットプレーの機会を得た場合、多くチャンスも生み出せる。

 そこで、バックラインの中心としては長谷部誠(フランクフルト)が今も究極のカードと言える。単純のスピードはないが、事前のポジションや読みの良さで周りを動かし、自ら予測し、攻守を操れる。それは昨シーズン、ヨーロッパリーグ決勝でいきなり出場して優勝に貢献。昨日のチャンピオンズリーグ、マルセイユ戦でも、ラインコントロールや中盤につけるパスで違いを見せていた。

 長谷部は代表引退しているだけに、現実的な提案ではないが、3バックの真ん中で彼の域に達している日本人選手はいない。

 また、懸案は長友佑都の力が落ちた左サイドで、起死回生の策は旗手の起用か。

 レアル・マドリード戦、旗手はボランチとしてルカ・モドリッチに堂々と対抗。戦術能力も高く、ゴールに向かうインテンシティも高さも見せている。もともとはストライカーだが、ポリバレントなプレーヤー。東京五輪代表や川崎フロンターレでは左サイドバックを含めた複数のポジションを担当している。左ウィングバックのように可変のポジションで、ポスト長友の答えになるのではないか。

ダブルボランチに遠藤、橋本を推す

 守りの強度はバックラインもそうだが、そこに至る中盤のフィルターをどうするか、で大きく左右される。

 ダブルボランチの一角は、シュツットガルトの遠藤航で決まりだろう。

 遠藤はブンデスリーガでデュエル王という称号を受けているように、対人ディフェンスはワールドクラスと言える。一人の守備者として、弱点がほとんどない。マーキング能力は一端にすぎず、身長は高いと言えないが、勝てないまでも負けずに競り合えるし、インターセプトの読みと出足の鋭さに優れ、広い視野で味方のカバーもできる。

 ただ最近の遠藤は、代表ではやや空回りしている。デュエル王という称号は危うい。あまりに局面でボールに食らいつき過ぎ、自陣でファウルが多くなり、裏を破られる場面も見られるようになった。どこか攻守のバランスを失っているのだ。

 そこで、ボランチの相棒にリーガエスパニョーラ2部、ウエスカで定位置を確保した橋本拳人を推したい。

 橋本は大別すれば、遠藤と同じ守備的ボランチである。脚が伸びるようなボールの取り方で、肉体的ダイナミズムに優れ、とにかく一対一で負けない。ロシア、FCロストフではマンマーク戦術も習得し、その強さを示した。ただ、その真骨頂は味方を補完するプレーにある。試合の流れを読み、攻守の舵を取れる選手で、FC東京時代は彼のおかげで優勝争いを演じたし、ヴィッセル神戸では4勝1分けと窮地から一時的に救った。橋本がいなくなった後の両チームの不振は、一つの証左だ。

 スポルティング・リスボンでレギュラーを勝ち取った守田英正も、有力な選択肢と言える。チャンピオンズリーグでの経験を考えれば、彼を起用するのは筋だろう。単純にボール技術がとびきり高く、アドバンテージを取れる。インサイドハーフとしては、日本人ではフォルトゥナ・デュッセルドルフの田中碧と並び群を抜くが…。

 高さやパワーなどダイナミズムで橋本を推したい。

 ボランチは別タイプが担当するのが定石だが、ボランチで守備力を高めるには、遠藤、橋本の同時起用が最善ではないか。4-2-3-1にも、5-4-1にも適応可能。二人は守備的だが、攻撃センスがないわけではない。迅速にパスをつけられるし、むしろ守備の安定が攻撃を好転させられる。

三笘に期待する「戦術」

 攻撃の俊敏性、技術、ひらめきにおいて、日本人選手はヨーロッパで才能を示している。

 フランクフルトでヨーロッパリーグ優勝の鎌田大地、レアル・ソシエダでマンチェスター・ユナイテッドを撃破した立役者の久保建英は強烈な攻撃力を持つ。ボールを持って、運べて、勝負を決められる。前線には、スコットランドリーグでゴールを量産するセルティックの古橋亨梧、セルクル・ブルージュで覚醒しつつある上田綺世、モナコでは不振も実力者の南野拓実がいる。

 今シーズン、欧州ではCL、ELで日本人選手が健闘。彼らをどこまで用いることができるか――。

 4-2-3-1で一番期待したいのは、ブライトンの三笘薫の電撃的突破だ。

 三笘は完敗だったブラジル代表戦でも、左サイドで怖さを与えていた。彼自身の攻撃はほとんどすべて封殺されてしまったが、単独のドリブルで挑み、それが止められるとワンツーから抜け出し、エリア内で止められたものの、エリア内で敵にわずかながら狼狽があった。

 やや大げさに言えば、彼一人が「戦術」になるだけの可能性を示した。鎌田のようなファンタジスタのパスを受けられたら、三笘は真価を発揮できる。その存在は他の局面にも好影響を与えるはずだ。

 森保監督は、守りを固めながらスピードのある選手のカウンターで一発、という戦いに傾倒しつつあるように映る。しかし、これは相手が相当に油断する、もしくは侮るという要素がないと成立しない。先制されたら即終了となる戦い方でもあり…。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20220902-00310845

 日本が強敵と対峙するには、守備を分厚くしながらボールを持てる要素を捨ててはならない。守備重視の5-4-1にするにしても、両ワイドには攻め手を持つべきだろう。旗手や伊東のウィングバックの起用はその候補か。

 人材がいないことはない。指揮官が適材適所の戦い方ができたら、恐れる相手はいないはずだが…。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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