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三笘薫が示した森保ジャパンの「奥の手」。南野、鎌田も適材適所の起用で強豪国も脅かす!

小宮良之スポーツライター・小説家
撮影 高須力

 パラグアイ、ブラジルと戦い、森保ジャパンの現実が見えてきた。

 4-1と札幌で快勝したパラグアイ戦、攻撃面で良さが出たと言える。皮肉にも、代表から遠ざかっていた鎌田大地、堂安律、代表デビューとなった伊藤洋輝が主役になった。0-1と東京で惜敗したブラジル戦、ベストメンバーに近い布陣で満を持した。守備面では組織的な堅固さを見せたが、得点が入る気配は乏しかった。

 カタールワールドカップに向け、森保ジャパンはどこに舵を切るべきか?

吉田の冷静な現状分析

 森保一監督は、戦いの効率を求めているのだろう。「いい守りがいい攻めを作る」という理念もはっきりしている。遠藤航のアンカー起用など、守備を分厚くし、プレッシングとリトリートを使い分けるチームを作ることに成功した。世界のどこの国とでも、「負けにくい」という点では十分に戦えるようになった。

 批判も浴びるが、そこは及第点を付けられる。

 ブラジル戦、0-0で長く保ったのは一つの証左だろう。ただ、相手の2列目すら超えられず、発展性は乏しかった。何より、善戦でも負けは負けだ。

「0-1以上の差はあった」

 キャプテンで守備の重鎮である吉田麻也はブラジル戦後にそう振り返ったが、2度のワールドカップを経験しているだけに、誰よりも冷静に試合を見極めていた。

「本番(のブラジル)はこんなもんではない。今日は、もし本番なら0-0にしなければならない試合だった。メンバーが代わって失点してしまい、リードされたら点をもぎ取るサッカーをしなければならなかった。スペースが空いてきたところ、(三笘)薫が1対1で特徴を出したが、やはり崩す形を持っていた方がいい」

 このままでは、善戦以上には届かないだろう。一発のシュートが入って勝てないとは限らないが、その確率は限りになく低い。チーム全体の守備は重要だが、選手の良さを適材適所で生かす方策を探るべきだ。

選手の良さを最大限に生かす編成を

 ブラジル戦、トップで起用された古橋亨梧は満足にパスをもらえなかった。後半にもつれたボールを遠目から狙うシーンはあったが、試合を通じてほとんど沈黙。バックラインへのプレッシングだけでなく、カゼミーロの出所を抑えるためにも奔走し、もはやディフェンダーに近い仕事だった。

 左サイドで使われた南野拓実も同様だろう。パワーのある選手だけに、献身的に戻って守備で連係することで、強度を高めた。しかし、肝心の攻撃では位置が低く、ほとんど有効打がなかった。

 編成上、前線の選手が犠牲にならざるを得ない。

 パラグアイ戦、あれだけ活躍した鎌田、堂安もノッキングした。

 鎌田の4-3-3でのインサイドハーフ起用は絶賛されたが、案の定、ブラジル戦では厳しかった。ボールを持つ位置が低すぎ、持ち味は出ていない。挙句、ネイマールの巧妙な倒れ方で、イエローカードを受ける始末だった。

 右サイドで途中出場した堂安も低い位置にいると、危うい存在になった。失点を浴びたPKにつながるシーンでは、自陣で縦パスを受けようとして奪われてしまい、カウンターを食らう羽目になっている。どこが相手でもコンビネーションを作れたら攻撃力は通じるはずだが…。

 高い位置でボールを持てる時間をもう少し増やさないと、日本が誇るアタッカーたちは力を出し切れない。

撮影 高須力
撮影 高須力

三笘の可能性

 ブラジル戦、守備陣が健闘したのは事実だ。

 遠藤のアンカーは中央を固めていたし、センターバックの吉田麻也、板倉滉は体を張っていた。際のところで、自由にやらせていない。そしてGK権田修一もネイマールのミドルを華麗に弾くなど、見せ場を作った。

 ただ、ポゼッションは守備のためで、攻撃も単調を極めた。カゼミーロ、フレッジの二列目をほとんど越えられていない。

 ただ、パラグアイ戦のような編成にしたからといって、ブラジルに攻め勝てたわけでもないだろう。事実、三笘薫は果敢に1対1を挑んだが、最初はエデル・ミリトンを驚かせたものの、その後は間合いを読まれてしまった。ドリブルは悉く止められた。

「得意な形で仕掛けようとしたけど、強さもスピードも足りなかった。途中から入ってフレッシュで疲れていた選手が相手だったのに、すぐに対応されて。レベルアップしないと差が大きくて、このままでは勝てないと肌で感じました」

 三笘の言葉は真摯だ。

 しかし、三笘が仕掛けるシーンは胸躍らせるものがあった。1対1で仕掛けない限り、次にコンビネーションを使って破る、という選択肢も生まれない。実際、ワンツーから抜け出してエリア内で倒されたシーンは、ファウルだったとしても不思議はなかった。つまり、脅威は与えていた。

 ブロックの外側でパスを回しているだけでは、得点が生まれる可能性は低い。その点、三笘の突破は相手の守り方に変化を与え、亀裂は生じさせた。二の矢、三の矢で突き破ることも不可能ではない。

 日本には、攻撃的な編成を組めるだけの「奥の手」があるのだ。

攻撃的な編成を「奥の手」に

 守備から攻撃の比重を高めるには、やはり適材適所での選手起用が求められる。

 例えば南野は、ゴールに近いポジションでプレーさせるべきだろう。戻って守備ができるし、起点にもなれる器用さの点、サイドで欠かせないのは分かる。しかし、最大限の力を出しているとは言えない。ブラジル戦ではオープンな展開になった時、彼が左からドリブルを仕掛けても、峠は越えたダニエウ・アウベスを抜く速さも技量もなかった。サイドで平均的仕事はできるが、崩し役は向かない。何より、ゴール前にいれば一発が期待できる選手なのだ。

 伊東も素晴らしいアタッカーで、サイドでは守備だけでなく、カウンターの先鋒にもなれる。アジアレベルで縦の推進力は強力な武器で、森保ジャパンの申し子と言える。ただ、ブラジルのような相手だと持ち味を出させてもらえない。単純にクロスを上げるだけになると、そこまでの精度は望めないし、そもそも日本には合わせるタイプのストライカーも乏しい。

 少なくとも、森保ジャパンは攻撃的な編成を「奥の手」に持つべきだろう。鎌田をトップ下、三笘を左、堂安、もしくは久保建英というレフティを右に入れ、コンビネーションを使って攻めに出る。トップは南野、上田綺世か。古橋も、高い位置で攻められる状況を与えられたら脅威になる。3試合のうちの1試合、もしくは後半の勝負所での切り札でもいい。

「負けにくいチーム」

 それは、フランスワールドカップ、南アフリカワールドカップの岡田ジャパンで十分だろう。消耗戦の末、勝ち上がれるかもしれない。だが、それを進化と呼べるか。

 酒井宏樹、冨安健洋が戻ってくれば、必然的に守備力は高まる。攻撃面に注力すべきだ。パラグアイ戦で証明したように、攻撃の俊敏さや精緻さや発想力に日本の強みはある。

 キリンカップ、ガーナ、チュニジアorチリ戦は、攻撃を習熟させるための布石となるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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