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クリスティアーノ・ロナウドは王座を守れるのか?「彼の憧れは彼自身でした…」

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

メッシ・ロナウド時代は終焉か

 ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド、37歳)は、「王座」を失うのか?

 プレミアリーグで、ロナウドは18得点を記録している(37節終了現在)。得点ランキングは3位。ただ、所属クラブはタイトルだけでなく、来季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場権すら逃し、レアル・マドリードで欧州3連覇をしていた時、カップ戦も含めるとシーズン60得点以上した当時と比べると、爆発的な得点力にやや陰りが見える。

 C)では、5試合連続6得点と決勝トーナメント進出に大きく貢献した。「チャンピオンズリーグ男」と言われる面目躍如だった。大舞台に強さは健在だが、ラウンド16ではアトレティコ・マドリードに敗れ、自身も無得点だった。

 歳月は人を待たず、か。

「メッシ・ロナウド時代」

 それは一つの歴史になろうとしているのかもしれない。

 しかし一方で、37歳でこれだけの存在感を放てるストライカーはいないだろう。今も得点力は世界トップレベル。チームの不振が色濃く影響しているだけで、先日のチェルシー戦も完全な劣勢の中、一本のパスを彼がゴールに蹴り込み、どうにかドローに持ち込んでいた。ブレントフォード戦も、一度はオフサイドの判定で得点が取り消されたが、自ら奪い取ったPKでゴールをもぎ取った

 とは言え、チーム全体がロナウド中心にならざるを得ない。今まではディフェンスの負担を誰かに任せても、卓抜とした得点能力によって特権が与えられたが、そうはいかなくなってきた。ロナウドよりも得点力はやや劣っても、それ以上に守備で連動できる場合、チーム編成を考えると落としどころが難しくなってきたのだ。

 はたして、ロナウドは王座を守ることができるのか?

ロナウドの原点

 2004年9月、筆者は当時、十代でポルトガル代表の中心になりつつあったロナウドの原点を辿るため、生まれ故郷のポルトガル、マデイラ島を探訪したことがある。

 マデイラ島の名門、ナシオナルでロナウドはプレーしていた。10歳だった当時、記念で撮影された1枚のポスターが貼ってあった。1995-96シーズン、ロナウドがマデイラトーナメントで優勝したときのものだ。

 当時のチームメイトにブルーノという19歳の青年がいて、話を聞いた。ブルーノはロナウドと同い年で、優勝したシーズンは中盤の攻撃ポジションでタッグを組んでいたという。

-君自身、プロの道は険しい?

「自分はユースから2軍に昇格して1年目で、これからが勝負なんです。だから、正直ロナウドは凄い。僕と同い年なのに」

-ロナウドは年下にも関わらず、“大将格”だったと聞きました。

「反感を持っていた奴もいて。でも、結局は屈服してしまった。だって、圧倒的にうまかったですから」

-ロナウドにライバルはいた?

「はい、80年代にドリブラーとして活躍したフットレというあだ名の選手で。ドリブルがうまくて。当時は凌ぎを削っていました。でも、今はどこのチームにいるんだろう?どこかでボールを蹴っているとは聞いたけど・・・」

-なにが二人の運命を分けたのか。

「性格。これは間違いないですよ。ロナウドは凄まじい集中力の持ち主でした。メンタルだけは敵わないなって。スポルティング時代のマンチェスター・ユナイテッド戦を見ましたか?あいつ、ここだという場面ではもうなにかに取り憑かれたようになるんすよ」

-ピッチでロナウドはよく泣いていたと。

「自分が許せなくなるときもあったようだけど、チャンスを外した味方にも辛辣でした。“そんなのも決められないのかバカ野郎!”って。負けることが大嫌いで。一人で11人を相手にしているんじゃないか、って思った時もありました」

-フットボールの他に、ロナウドが興味を持っていたことは?

「ありませんね」

-彼に憧れの選手はいた?

「いません。彼の憧れは彼自身でしたから・・・」

 少年ロナウドは、今よりも頬がややふっくらとしていた。生意気そうな面影は変わらなかった。中央に陣取り、一人だけ首に十字架を下げ、毅然とした視線で正面を見つめる。その姿は、無垢な子供たちに混ざると超然として映った。

突出したメンタリティ

 一つ言えるのは、ロナウドは余人が想像できるようなパーソナリティの持ち主ではない、ということだろう。潰されるような重圧を、彼は自らの浮力に換えてきた。批判されるほど、彼はそれに反発するように力を出してきたのだ。

 唯一、己のみを信じるような姿勢は「エゴイスト」とも揶揄されてきたが、一方で求道的でもある。

―今もサッカーを楽しんでいるか?

 その質問に対し、現在のロナウドはこう答えている。

「今はサッカーを『使命』と捉えている。ピッチに行って、勝利し、自分のプレーを改善する。少年時代は、今日はドリブルしてやるぞ、という感じでピッチに通っていた。でも、そういう意味での楽しみ方というのはもうない。今はプレッシャーの中で生きているから。周りの人たちが、いつも自分のプレーをジャッジしている。33,34,35歳と年を重ねてきて、『もうダメだろ、辞めたら』という空気を感じるよ。それを覆すには、”憎まれっ子”にならないとね」

 憎しみをも、彼は燃料にしている。破格の精神力と言えるだろう。唯一、自分だけを信じられるからこそ、猛烈な自己愛で突き進める。その独善性は、もはや才能だ。

 その点、彼は少年時代と変わっていない。

―あなたのことを、ロボットじゃないか、と訝しがるファンもいます。

「いや、さすがにそれはないでしょ(笑)。でも、自分は問題を抱えることはないし、悲しみに浸ることもないし、心配で上の空になるなんてこともない。そう思う人は、自分がそういう人間で、お金を稼いで成功しているからかもしれない。まず、理解するべきなのは、私が他の人のようには考えないということで。私がPKを失敗したり、重要なゲームで失敗したりすればいいのに、と考える人がいるのは知っている。でも自分はそれに対し、ずっと何年も前から準備をしてきた」

王は最後の日まで

 周囲の懸念など、すべて織り込み済みなのだろう。敵愾心を燃やすことで、彼は生きている。サッカーをするために生きているし、生きることはサッカーと同義なのだろう。

 その点、純真とも言える。

―あまりに正直に発言過ぎる、とも言われます。

「そうかもしれない。しかし、私はこうやってプレーしてきて、これだけのファンがいる。世界で一番、ファンの数が多いんだよ?私の生き方が人々を感化しているということだろう」

 プレミアリーグも今シーズンは残り1試合になった。

 マンチェスター・Uは来季、エリック・テン・ハーグ監督が就任することになっているが、ロナウドの去就はまだ確定していない。各方面は残留を求めているようだが…。

 いつかの日か、ロナウドも王の座から降りるだろう。時の流れには誰も逆らえない。しかし最後の日まで、ロナウドは王であり続けるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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