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カタールW杯、森保ジャパンは強豪スペインといかに戦うべきか?

小宮良之スポーツライター・小説家
東京五輪で日本を下したスペイン(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

スペインの強さ

 カタールワールドカップ、日本は強豪スペインと同組になった。

 スペインは2010年ワールドカップの王者であり、EURO2008,2012も連覇している。直近のEURO2020も準決勝進出、ネーションズリーグはファイナリスト。今大会も優勝候補だ。

 とにかく、多士済々である。

 お膝元である国内リーグ、リーガエスパニョーラは豪華絢爛。例えば今シーズンのチャンピオンズリーグでもベスト8に、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリード、ビジャレアルと3チームを輩出している。FCバルセロナではスペイン代表ペドリ、セルヒオ・ブスケッツが各ポジションで世界最高の選手で、十代のガビ、アンス・ファティのような新鋭もいる。

 戦力だけで比較すると、残念ながら日本は数段劣る。仮定の話だが、スペイン代表に入れる実力、実績のある日本人は片手で数えられる。1軍と3軍ほどの差だ。

 しかし、サッカーは最も大番狂わせが多いスポーツである。その程度の差、ひっくり返らないことはない。第3戦で対決予定だが、ドイツ、コスタリカorニュージーランドと戦った後、勝利、最低でも引き分けが必要な状況というのは十分ある。

 そこで、勝ち筋があるとすれば?

スペイン人は日本サッカーをどう見ているか?

 スペイン人サッカー関係者の日本サッカーへの評価は、ポジティブなものとネガティブなものが同居している。

「敵味方ゴール前の力は弱いが、テクニカルでスプリント能力に優れた選手が多い」

「戦術面は未熟だが、その分だけ何をしてくるかわからず、油断できない」

「組織を重んじる反面、個人で試合を決するエネルギーが足りない」

 そこに通底しているのは、「上から目線」である。それは日本人がベトナムやタイのサッカーに抱く感覚に近く、「昔よりも強くなった」という程度と認識すべきだろう。

 つまり、勝ち筋は彼らの”慢心”をどこまで利点にできるか。

「いい守りがいい攻撃を作る」

 その理念をアジアで実現した森保ジャパンは、慢心を揺さぶるだけの陣容は整えている。

 酒井宏樹、吉田麻也、冨安健洋で構成するディフェンスラインは、十分にスペインの攻撃に対抗できる。遠藤航は、猛攻撃に対するフィルターになるだろう。また、カウンターに入った伊東純也のスピードはスペインのディフェンスをも面食らわせるだろうし、南野拓実も一発を持っている。アジア予選を勝ち抜いた面子でも、圧倒されることはない。

 しかし、守って勝つのは厳しいだろう。

日本サッカーの特性

 なぜなら、日本人は性質的に堅く守ってカウンターのような戦い方を決して得意としていない。実は攻撃的な志向が強く、事実として攻撃的なタレントを多く輩出。守りが伝統的に強いイタリア、ウルグアイなどは粘り強さだけでなく、どう猛かつ狡猾、したたかだが…。

 2010年の南アフリカワールドカップ、岡田武史監督は前線からのハードワークで実直な堅牢堅固を極めている。阿部勇樹のアンカー起用、田中マルクス闘莉王、中澤佑二のパワー満点のセンターバックがいたことが奏功した。セットプレーのキッカーとして本田圭佑、遠藤保仁を擁し、カメルーン、デンマークを下してグループリーグを突破している。

「サッカーとしては何も面白くはなかった」

 それが当時の選手たちの偽らざる感覚だったが、実際、強豪オランダにはなす術なく敗れた。

 その後、日本は「自分たちらしさ」という極端な攻撃サッカーに転換していった。それはアジア王者という結果やコンフェデレーションズカップでのイタリア戦の善戦などをもたらした。ただ、行き過ぎてしまったことで、2014年のブラジルワールドカップでは惨敗している。

 一つの着地点を見出したのが、2018年のロシアワールドカップだった。西野朗監督が率いた日本は攻守一体のサッカーで可能性を示した。長谷部誠が中盤でバランスを取って、攻撃のタレントを生かしつつ戦い、コロンビアに勝利し、セネガルと引き分けてグループリーグを突破。そして決勝トーナメントで強豪ベルギーを相手に撃ちあい、あと一歩のところまで追い込んでいる。

 ロシアでの戦い方は、一つのヒントだ。

日本のストロングポイント

 スペイン戦、日本は攻撃的タレントを生かした編成をすべきである。少なくとも、その姿勢を捨ててはならない。なぜなら、スペインのような強豪は守りに入る弱者に慣れていて、それを打ち壊すだけの方策も度胸も持っているからだ。

 ブラジルワールドカップの時のように「ワールドカップ優勝」と浮かれて、攻撃に特化すべきではない。しかし現在の代表は守りに人材を擁しているし、形もできあがった。その上で、日本の最大のストロングを生かすことで、相手も好き勝手できなくなる。

 自分たちがボールを持って、能動的な戦いをすることを日本は得意とし、スペインをも怯ませるだけの人材がいる。例えば田中碧のボールを運び、つなげるセンスなど特筆に値する。チームとしてボールを握れるだけの陣容だ。

 そして久保建英、三笘薫、鎌田大地の3人は「崩し」が期待できる。久保は小柄だが俊敏で、一人でもコンビネーションを使っても守備網を破れ、左足の一撃は高い水準にある。三笘も左サイドを完全に抜き去るドリブルは強力な武器。鎌田は意外性のあるパスが出せ、スペインの攻撃的選手と比較してもそん色はない。

 守って耐えられる形は必要だろうが、それだけではストロングが生かせないと自覚すべきだ。

 東京五輪、準決勝で日本はスペインと対戦しているが、やや押される形ではあったが、極端に守りを固めたわけではない。久保、堂安律は可能性を感じさせるプレーがあった。延長戦の末にマルコ・アセンシオの一撃で敗れたが、明らかな戦力差はない。たら・れば、だが、もう少しコンディションが良く、交代策で相手を脅かせることができていたら…。

 これは五輪の話だが、実はフル代表の主力の半数近くを占める。

 カタールでも、日本は臆する必要はない。むしろ弱気を見せた瞬間、やり込められる。少々守りを固めても、遅かれ早かれ、失点するだろうし、先制点を奪われたら万事休すだ。

 たとえ分が悪くても、日本は攻撃面のストロングポイントを生かし、「攻撃こそ防御なり」で挑むしかない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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