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ガラタサライに苦戦のシャビ・バルサで”要る選手、要らない選手”。メッシに居場所はあるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

見えてきたシャビ・バルサ

 昨年11月、シャビ・エルナンデス監督がFCバルセロナ(バルサ)を率いるようになって状況は好転している。

「ボールを持つチームが優位」

 バルサの哲学に準じ、まずはボールプレーを信奉した。ロナウド・クーマン監督の「蹴るサッカー」から転換し、ポゼッションを徹底。同時にハイライン、ハイプレスで高い位置で攻撃する時間を増やし、失ったボールも奪い返す。「攻撃こそ防御なり」の精神だ。

 当初はボールをつなぎながらも決定力を欠き、守備の弱さを露呈し、懐疑的な声も上がったが、今年に入って変化が出た。

 バックラインにスピード、パワーのあるロナウド・アラウホが定着し、ラインを上げられるようになる。中盤と緊密なライン関係を作れるようになり、アンカーのセルヒオ・ブスケッツが復調。中盤でペドリがケガから戦列に復帰し、プレースピードが加速、フレンキー・デヨングのダイナミズムも出るようになった。前線にはアダマ・トラオレ、オーバメヤン、フェラン・トーレスを冬のマーケットで獲得し、得点力が増した。

 シャビ・バルサの未来像が徐々に見えてきている。

 しかし、先発メンバーに手を入れたヨーロッパリーグ、ガラタサライとのホーム戦はスコアレスドローで苦しんだ。

ガラタサライ戦の不具合

 ガラタサライ戦、バルサはガビが累積警告で出場停止で、ブスケッツ、ピケ、オーバメヤンの主力を温存した。このメンバー変更が影を落としていた。

 ブスケッツにアンカーに入ったF・デヨングは優れたMFだが、同じタスクは望めない。自らの立ち位置の違いで人やボールを動かすタイプではなく、それがプレー全体の停滞につながった。それを助長していたのが、バックラインでピケがいないことで、アラウホにいつもの集中力がなく、ラインコントロールも球出しも不安定で、前半で交代を命じられるほどだった。中盤でも、ニコがガビのような存在感を示せていない。

 何より、デパイはバルサのリズムにまったく合わなかった。サイドではノッキング。トップでも無理にポストに入ろうとしてボールを受けられず、来ても下げるだけ。プレーに緩急をつけられず、判断が悉くズレていた。その不具合がF・トーレスなどにも伝染し、圧倒的に攻め込みながら得点を奪えないという結果につながったと言える。

 だからこそ来シーズンに向け、ポジションごとに「シャビ・バルサに要る選手、要らない選手」を検証する必要があるはずだ。

GKは盤石

 テア・シュテーゲンは盤石だろう。

 テア・シュテーゲンはクーマン監督時代、不調に陥って「売却論」も出た。しかし、手放すなどとんでもない。優れたゴールキーピングだけでなく、バルサが求めるフィールド能力も持ち合わせる。チームとしてのバランスが狂ったことで失点を浴びていただけで、回復を見せつつある。2025年までの契約だが、少なくとも3シーズンは安泰だ。

 ネトも控えとして信頼できるGKだが、2023年までの契約で、その後はバルサB育ちのGKに託したい。ガラタサライで武者修行中のイニャキ・ペニャはバルサ戦でファインセーブを連発し、改めて力を示した。20歳でスペインU―21代表のリベロセンス抜群のアルナウ・テナス、モンテネグロ代表に召集されたラサール・カレヴィッチなど若手がどこまで伸びるか。

ディフェンスの柱はアラウホ

 右サイドバックは、セサル・アスピリクエタ(チェルシー)、ヌサイル・マズラヴィ(アヤックス)の二人の獲得が噂される。アスピリクエタは知性のある選手でユーティリティ。マズラヴィは攻撃センスが注目されるが…。

 個人的には現有戦力で来季の契約は不透明なセルジ・ロベルト、ダニエウ・アウベスの二人を推したい。バルサの仕組みを誰よりもわかっている。バルサのサイドバックは、その仕組みが分かっていないと厳しく、ドウグラス、アレイチュ・ビダル、ネウソン・セメドと不具合を生じさせてきた。セルジーニョ・デストもシャビが監督になって改善点も見られるも、ファーストオプションにはなり得ない。

 センターバックは、ロナウド・アラウホを軸に据えるべきだろう。ジェラール・ピケは最適のコンビ。ただ、アラウホはビルドアップの能力は改善の余地があり、試合によって波がある。ピケはスピードの衰えが明らかだが、リーダーとして戦いを締められるし、何よりボールプレーに一日の長があり、例えばガラタサライ戦はアラウホに代わって出場し、流れを改善した。

 控えとしては、下部組織ラ・マシア組のエリク・ガルシア、オスカル・ミンゲサだが、二人は一長一短があるか。E・ガルシアはボールの持ち出しなどはガラタサライ戦も見事で、ミンゲサはサイドバックもできるタフさはあるが…。クレマン・ラングレ、サミュエル・ウンティティは売却すべきだろう。「シャビがリクエストした」と言われるクリバリ(ナポリ)を獲得できたらベターだが、資金的にもプライオリティはアラウホとの契約延長だ。

 左サイドバックは、ジョルディ・アルバで決まり。衰えも指摘されるが、チームとしてのオートマチズムを取り戻せば、本来の力を見せられる。少なくとも、契約が残っている2024年までは安泰だ。

 問題はバックアッパー。アレハンドロ・バルデは経験が足りないし、怪我が心配される。

 個人的には、ラ・マシア出身のアレハンドロ・グリマルド(ベンフィカ)を呼び戻すことを勧めたい。クロスの精度が高く、大舞台でのプレー経験も積み上げてきた。サイドバックは独特なプレーが必要なだけに、ラ・マシア出身者がベターだ。

ブスケッツは復調、ペドリは破格

 アンカーは、セルヒオ・ブスケッツで当確だろう。シャビ監督就任で復活。守備では抜群のポジショニングでパスカットし、攻撃では迅速にパスを入れ、バルサのプレーを司る。

 唯一無二の存在だけに匹敵する選手はいないが、デヨング、ニコ・ゴンサレスは有力なバックアッパーだ。

 インサイドハーフは、ペドリ、F・デヨング、ガビ、ニコ、リキ・プッチの序列だろうか。

 ペドリは「世界最高のサッカー選手」と言える。バックパスにすらメッセージがあり、促されるようにプレーが無限に広がる。相手の力を利用できるセンスは天才的で簡単に入れ替われるし、柔よく剛を制す。ダイレクトパスで一気にラインを突破する技はため息もので、他の追随を許さない。別格の選手だ。

 F・デヨングは広いプレーエリアを担当でき、ゴールも狙えるのが持ち味だろう。ガビはプレー強度に特徴があり、サイドアタッカーとしても力を出せる。ニコ、プッチもラ・マシアのプレーリズムを身につけている。

 中盤の人材は豊富で、新たに獲得する必要はない。

顔ぶれがそろった前線

 サイドアタッカーは、トラオレ、ウスマンヌ・デンベレは貴重な選手だが、来季は不透明。トラオレはレンタルだし、デンベレは契約更新を拒否している。少なくとも一人は必要だ。

 やはり、3000万ユーロの移籍金でラ・マシア出身のトラオレを完全で獲得すべきか。パワー、スピードが目を引くが、プレーインテリジェンスも高い。一人で右サイドを抜き切ってクロスを上げられるプレーは強力な武器だ。

 新加入のF・トーレス、オーバメヤンはすでにバルサに適応している。コンビネーションで崩す術を身に付けた二人で、ゼロトップ、サイド、どこでもゴールに向かってプレーできる。次のバルサのエースと目されるアンス・ファティが再び長期離脱になったが、十分にカバーしている。

 一方で、メンフィス・デパイ、マーティン・ブライトワイトの二人は売却リストに掲載すべきだろう。デパイは好選手でセットプレーのキッカーとしても格別だが、バルサではプレーテンポが合わない。ブライトワイトは残念ながら実力不足。ルーク・デヨングはストロングヘッダー、ポストプレーヤーとして、昔のフリオ・サリーナスのような攻撃バリエーションとして悪くはないが、今シーズン限りのレンタルだけに…。

ハーランドか、メッシか

 バルサの問題は資金面で余裕がないことだろう。GK、MFの補強は控えるべきで、DFもアルバのバックアッパーだけでもいいかもしれない。獲得よりも売却に力を入れるべきだ。

 その一方で、ゴールゲッターとして傑出したアーリング・ハーランド(ボルシア・ドルトムント)を獲得することはできないか?

 ハーランドはスモールスペースのプレーに戸惑うだろうが、ゴールゲッターとしての実力は折り紙付き。ジョアン・ラポルタ会長がハーランドの代理人ライオラと親しいだけにパイプはある。サミュエル・エトー、ダビド・ビジャ、ルイス・スアレス以上の得点力を見せつけられるはずだ。

 シャビ・バルサの一つのキーワードは、「ラ・マシア」だろう。バルサのプレーは特殊性が高く、適応力が問われる。ラ・マシアで培った者はその点のアドバンテージがあるのだ。

 もう一つは、「戦術を超越した助っ人」だろうか。かつてもミカエル・ラウドルップ、フリスト・ストイチコフ、ロマーリオ、ロナウド、リバウド、エトー、ネイマールのようなスーパースターがチームを支えた。外的な刺激も、一定は必要だ。

 両方を満たすのが、リオネル・メッシのはずだった。しかしながら来シーズンで36歳になるメッシは、全盛期のプレーは影をひそめる。今や新たな機運も生まれる中で、アウベスのような条件(ほぼボーナス給のみ)で来てもらえるなら、カムバックは浪漫を感じさせるが…。

 クラブの狙いはハーランドか。

 シャビ・バルサは新時代に突き進む。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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