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瀕死の森保ジャパン。オーストラリア決戦、勝利のシナリオはあるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 森保ジャパンは瀕死の状態と言えるだろう。オマーン、サウジアラビアに敗れ、猛批判を浴びる。カタールワールドカップ出場に向け、危険信号が灯り、状況はあわただしい。

 真偽のほどは定かではないが、Jリーグのクラブを率いる日本人監督の名前が後任に浮上した。また、母国では誰にも知られていない、トップリーグで1シーズン通して指揮したことがない外国人監督の名前まで、まことしやかに後任候補に上がっている。それほどに、「森保一監督解任」を叫ぶ声は大きく、ネットでは“血祭りに上げる”という狂気すら帯びる。代わりとなる監督に対し、確証など必要はない。とにかく監督の首をすげ替えたい、という世論だ。

 森保監督は強いストレスを受けているだろう。ファンだけでなく、関係者までも好き勝手に「次の代表監督」を語る。意見の多くは荒唐無稽で、代表監督の交代は簡単ではないのだが・・・。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20210911-00257578

 しかし代表監督は重圧を跳ね返し、それを反発力に強いチームを作るしかない。

 10月12日のオーストラリア戦、森保ジャパンは勝利を掴めたら、状況を変えられる。勝てば官軍負ければ賊軍。大方の人々は、とりあえず勝利に納得する。その安定によって、チームは本来の力を出せるところがあるはずだ。

 では、森保ジャパンのオーストラリア戦、勝利のシナリオとはーー。

オーストラリアは恐れるほど強くはない。

 敵を知り己を知れば、百戦して百戦危うからず。

 サッカーは相手があるスポーツである。自分たちのスタイルは大事だが、勝利のアプローチとしては、それは十分ではない。相手に応じ、プレーを柔軟に変えられるチームが、多くの場合、勝者となるのだ。

 その点、オーストラリアは世界基準では恐れるほど強いチームではない。ヨーロッパのトップクラブで定位置を掴んでいる選手は見当たらず、中堅リーグか、2部リーグの選手が多い。日本代表と比べても、戦力的に同等か、あるいは下だろう。誤解を恐れずに言えば、Jリーグ国内日本代表と大きくは変わらない。

 日本はしっかりと相手を研究できれば、活路はあるはずだ。

 オーストラリアを率いるグラハム・アーノルド監督は、森保監督と共通点のある戦いをする。

 4−2−3−1、あるいは4−4−2とも言えるフォーメーションで、トップのアダム・タガートが頻繁に中盤まで降り、組み立てに参加。前線のプレーメーカーで、そこを起点に両サイドからアワー・メイビル、マーティン・ボイルというアタッカーが斜めの動きで中に入って、得点を狙う。ポゼッションが基本で、サイドバックが厚みをつけるが、一本の縦パスも狙い目で、中央は高さ、サイドはスピードや馬力がある選手を配置している。

 チーム全体としてはまとまっている印象だが、弱点はある。

弱点はボランチ

 直近のオマーン戦の失点シーンは象徴的だ。

 中盤のギャップでボールを受けたオマーンの選手に、オーストラリアはダブルボランチの一角であるアルディン・フルスティッチが食いついた。しかし呆気なくマークをはがされ、前に運ばれる。これでもう一人のボランチ、ジャクソン・アーバインは数的不利にさらされ、背後にパスを通される。瞬間的にバックラインの前で立ちはだかる選手がいない、無防備な状態になった。オマーンの選手が右に展開し、ことなきを得たかと思われたが、戻ってきたメイビルの寄せが甘く、帰陣したフルスティッチはカバーが緩慢で、フリーでクロスを通される。エリア内でポストプレーを許し、落としのパスをバックラインの前でフリーのオマーンの選手に叩き込まれた。

 ダブルボランチが防衛線を保てない時がある。

 フルスティッチは無理矢理ボールを運ぼうとし、囲まれて奪われ、カウンターを浴びるシーンもあった。オーストラリアの中心選手だけに能力的には高く、技術的には目立つのだが、しばしば判断が悪い。オランダリーグの中堅クラブで準レギュラーが精一杯で、今シーズンはフランクフルトに在籍し、出場機会を増やしているが、成熟度が足りない状況だ。

 日本は誰がマッチアップするにせよ、遠藤航、田中碧、守田英正、あるいは柴崎岳でも、能力的には負けていない。個人的には、遠藤と田中のコンビを推奨する(本来は橋本拳人と田中碧がベストチョイスだが)。二人は東京五輪代表でも、コンディションが良かった試合は良いバランスを作り出していた。田中は防衛戦の攻防で勝利できるダイナミズムがあり、序列など無視して抜擢すべき選手だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20211007-00261202

 一方、オーストラリアから見た場合も、日本のボランチは付け入れる、と考えるだろう。ここはお互い、何らかの駆け引きがあるはずだ。

 サウジアラビア戦、日本は柴崎がバックパスで目を覆う失点の契機を作ってしまった。技術やビジョンはワールドクラスだが、球際の脆さは深刻。そこでプレッシャーを嫌い、サイドに張り出すことが多いが、遠藤との補完関係を有効に作れていない。

 また、遠藤自身も東京五輪からの連戦によるものか、一時の無双状態のスイッチは入らなくなっている。にもかかわらず、なんとかしようと動き回ることで、むしろ空転。東京五輪の決勝トーナメントに入ってから、プレーの効率が非常に悪くなった。

無限大の数式

 最後に、過去3試合でわずか1点という「攻撃改善の処方箋」である。

 一つはゴールの旬の選手である古橋亨梧をトップで起用することだろう。Jリーグに戻ったばかりの大迫勇也には、適応する時間を与えたい。古橋も、南野拓実も、サイドでも働けるが、最大限に怖さが出るのはトップのポジションだ。

 もう一つは、トップ起用法と符合している。

 森保監督はサイドにストライカータイプやカウンターのスピードを重視した起用が多くなった。しかし就任当初から2年目までは、中島翔哉、堂安、久保を重用し、三好康児、安部裕葵、食野亮太郎、相馬勇紀、三笘薫などにも目を懸けてきた。時間やスペースを作れるサイドアタッカーを起用し、日本が武器とする(技術+スピード)×コンビネーション=∞の式を導き出してきた。

 2020年は、代表強化がコロナ禍によって思うように進んでいない。パワー、スピードだけで勝てる相手が続いたのもあった。敵陣で拠点を作り、酒井宏樹、長友佑都などが絡み、攻撃の厚みを作り出せるか。大迫のような前線のプレーメーカーを起用するなら、ボールプレーでの崩しを重視するべきだ。 

「いい守りがいい攻めを作る」

 そのコンセプトで言えば、バックラインの安定は今も森保ジャパンの救いで、原点に戻るべきだが…。

 いずれにせよ。森保監督は自ら選んだ選手で、オーストラリア戦は心中する覚悟だろう。指揮官の意地。それは監督の性でもある。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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