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ラポルタ会長が再選したバルサは、「次のメッシ」を信じられるか?今シーズン前半の補強選手を査定。

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサで台頭するペドリ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 2021年3月7日、ジョアン・ラポルタが、FCバルセロナ(以下バルサ)の会長選で再び選ばれている。54.28%という得票率で、ほぼ圧勝。とにかく選挙プロモーションがうまかった。さすが2003年から2010年まで、バルサの黄金期を作っただけはあるだろう。

 しかし、ラポルタの仕事は山積みだ。

貯金を食いつぶした年月

 ここ数年、バルサはゆるやかに着実に下降線を辿ってきた。

 2010年に会長に就任したサンドロ・ロッセイ、そして2014年にその後を継いだジョゼップ・マリア・バルトメウが2020年10月に辞職するまで、10年間、チームは弱体化。最強時代を支えたカルレス・プジョル、ビクトール・バルデス、ペドロ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタなどが移籍、引退する一方、脈絡のないマネジメントで”貯金を食いつぶし”、惨憺たるありさまになっていった。フェリペ・コウチーニョ、ウスマンヌ・デンベレの二人だけの移籍金で約500億円。高額年俸も含めると、概算でも1000億円以上。二人とも数シーズン在籍し、全く値打ちに合わない。

 この二人だけでなく、過去、ほとんどの補強選手がチームに適応できず、去っていった。

 例えばブラジル人アタッカー、マウコムは4000万ユーロの鳴り物入りで入団も、1年で移籍。ほぼ同額で売れたが、戦力にならず、混乱だけが残った。そして最近、1000万ユーロを代理人に支払ったと事実が明るみに出て(ローマとの仮契約を取り消すためだと代理人は弁解)、滅茶苦茶だ。

 今シーズン、新入団した選手たちは戦力になっているのか――。チャンピオンズリーグではパリ・サンジェルマンに敗退し、リーガエスパニョーラも優勝は厳しい様相。シーズン前半戦を折り返し、◎〇△×の4段階で査定をしてみた。

×ミラレム・ピャニッチ(30歳)

 ボスニア・ヘルツェゴビナ代表MFのピャニッチは、ユベントスから同じタイプのMFアルトゥールとの”交換トレード”で、2024年6月末までの契約で移籍してきた。

 しかし、チームに適応できていない。先日のエルチェ戦も、ボールロストを多発。昇格組相手でも真価を発揮できず、「(バルサの選手として通用しない)判決は下された」と現地紙では厳しい評価だ。

 ラ・マシア(バルサの下部組織)出身MFにはないプレー強度の高さを期待されたが、むしろ脆さを露呈。リズムも全く違うため空回りで、1試合を戦う体力すら疑われるほどだ。ロナウド・クーマン監督は4-2-3-1のダブルボランチの一角で考えていたようだが…。

 バルサはアルトゥールとの交換トレードで1200万ユーロを多く手にしたが、当時アルトゥールは23歳でピャニッチは30歳である。アルトゥールは売却した時以上の価値になっている可能性があるが、34歳になったピャニッチはどこかに売り渡すにしろ、移籍金はほとんど期待できない。4年後は”減価償却”だ。

 バルサBのMFオリオル・ブスケッツをトップで鍛え上げた方が、有益だったのではないか。バルサの動きのオートマチズムは心得ているし、若く、金はかからない。”外様”に大金をばらまくなら、サウサンプトンのMFオリオル・ロメウを買い戻す選択肢もあったし、今シーズン、トップデビューを飾った18歳MFイライシュ・モリバに将来投資をした方が…。

 ピャニッチの年俸は10億円近く、今後もその存在によって財政はひっ迫するだろう。

△セルジーニョ・デスト(20歳)

 アメリカ代表のデストは、アヤックスから移籍金2100万ユーロでやってきた。

 グッドプレーヤーだが、バルサの選手としては凡庸の域を出ない。

 チャンピオンズリーグ、ラウンド16。パリ・サンジェルマン戦の1レグで右サイドバックとして抜擢されたが、戦犯の一人に数えられている。キリアン・エムバペと対峙したが、終始、手も足も出なかった。攻撃でもボールを引き出すことができず、後半途中で交代を命じられたのも当然だ。

 バルサのサイドバックは、高い位置でのタイミング、コンビネーション技術が求められる。それは独特のオートマチズムで、一朝一夕に身につけられない。前任者のネウソン・セメドも、そこでノッキングしていた。

「本来はセンターバックだが、ラ・マシア(下部組織)出身のオスカル・ミンゲサの方がマシ」

 現状、それがデストに突き付けられた答えだ。若く優秀な選手だが、バルサで育てるなら本末転倒だろう。

 バルサは、有力なラ・マシア出身右サイドバックを手放してきた。2011年にエクトール・ベジェリン(アーセナル)、2015年にマルティン・モントージャ(ベティス)などを売り払った。2019年、ドルトムントへ売却したラ・マシア出身のマテウ・モレイも、今やポジションをつかみつつあるのだ。

〇フランシスコ・トリンカン(21歳)

 攻撃重視のバルサは、常に相手の堅守を突き崩せるプレーヤーを必要としている。リオネル・メッシも、そのフィロソフィに従って育てられた。

「Desborde」(崩す)

 ポルトガル代表サイドアタッカー、トリンカンはその条件を満たす一人だろう。今シーズン、スポルティング・ブラガから3100万ユーロで迎えられた。ルイス・フィーゴ、シモン、クアレスマなどポルトガルが生んだドリブルの名手たちと同じ系譜だ。

 しかし、彼らはバルサで必ずしも成功に終わっていない。

 トリンカンも現時点で「有力なスーパーサブ」に過ぎない。左利きのドリブルは独特のテンポで、ゴールまで迫る力も持っている。ドリブルのためのドリブルではなく、ゴールに直結している点は「将来性豊か」と言える。

 ただ、バルサの主力になるには経験が必要だ。プレーのリズムが大きく異なる。それ故に、ラ・マシア出身者は他のチームで苦労する。

 トリンカンは適性がある選手で、能力も高いが…。

◎ペドリ(18歳)

 2部ラス・パルマスに所属していたペドリは、500万ユーロでバルサに移籍してきた。ただ、出場数やタイトルなど条件をクリアするたび、移籍金は加算され、最高で3000万ユーロ以上になるという。

 しかし、安い買い物だ。

 ペドリは、今シーズンの「リーガ新人王」と言ってもおかしくはない。両足を使えるだけでなく、俯瞰したビジョンで、たくさんの選択肢から瞬時に適切なものを選べる。バルサだけでなく、スペインサッカーの希望と言える。メッシにも、そのプレーセンスを評価されているのだろう。とにかくボールが集まる選手で、偉大な選手とコンビネーションを重ねることで、目覚ましい成長が見られる。

 大げさではなく、イニエスタに近い人材だ。

「子供のころから、バルサファンだった。イニエスタのプレーを通じ、サッカーを見てきた。彼のプレースタイルが好きなんだ」

 そう語るペドリは、バルサ再建の切り札になるだろう。

×マテウス・フェルナンデス(22歳)

 マテウスは、パルメイラスから700万ユーロで移籍してきた。ブラジルでもレギュラーでもなかったMFだが…。

 案の定、昨シーズンはバジャドリードに貸し出していたが、使い物にならず。突き返された後、どこにも引き取り手がいない。チャンピオンズリーグ、グループリーグの消化試合で数分、起用されたが、その後の音沙汰はなく、「幽霊選手」と揶揄される。

 前政権の負の遺産だ。

 この補強状況では、チームが弱体化するのも無理はない。

「バルサ=ラ・マシアだ」

 かつて、バルサの中興の祖であるヨハン・クライフは言った。有力な選手を獲得する必要はあるが、一貫した独特の哲学から優れた選手を生み出す原点に立ち返るべきだろう。例えばジョゼップ・グアルディオラ、シャビ、イニエスタの系譜を絶やすべきではない。オルモ(ライプツィヒ)、チアゴ(リバプール)、モレイ(ドルトムント)、エリック・ガルシア(マンチェスター・シティ)などラ・マシア出身選手たちは異なる環境に苦しみながらも、今のチャンピオンズリーガーだ。

 バルサのメッシは獲得した選手ではない。ラ・マシアで育てた選手なのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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