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コートジボワール戦、久保建英は機能しなかったのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
コートジボワールの選手と競い合う久保建英(写真:ロイター/アフロ)

 オランダ遠征、コートジボワール戦。日本代表の久保建英(19歳、ビジャレアル)は、左サイドのアタッカーとして先発している。後半16分に交代。得点はなかったし、アシストもなかった。

「期待外れ」

 そんな声が上がっている。

 しかし、久保が機能しなかったのか?

久保の仕事

 久保が数字の面で大きな貢献できなかったことは、確かである。アタッカーは、得点に関わる仕事を託されている。その点、厳しいようだが、高い点はつけられない。

 しかし、久保のプレーどころか、その資質にまで疑問を呈する論調は正しいのか。

 久保は、左サイドで先発した。左利きで中に切り込むプレーに持ち味があり、右サイドを得意としていることは知られている。言うまでもないが、トップ下、左サイドもできる久保自身、その起用法に文句はないだろう。

 ただ、現時点でベストのポジションとは言えない。

 チームプレーヤーとして、19歳の久保は献身的に役目を果たしていた。相手の攻撃を制限しながら、前に出た。全体的に受け身の戦いの中で、プレーに関与したい意欲が出て、ポジションも中より過ぎ、危険なボールの失い方もあった。しかし、攻撃では優勢に戦っていた。序盤には、鈴木武蔵の折り返しに、ポジションに入って、左足で合わせた。左サイドのウィンガー的にサイドを駆け抜けると、左足できわどいクロスを折り返している。1対1の仕掛けでは強さを見せ、ストライカーがスペースをもう少し早く感じていたら、ゴールになっていた決定機もあった。

 コンビネーションプレーを得意とする選手だけに、その部分での物足りなさはあったかもしれない。しかし急造で左サイドバックを担当した中山雄太とも、ボールを受けるタイミングも、プレスのタイミングも合わないながら、どうにか息を合わせようとしていた。後半には左サイドで幅とタイミングを作って、ラインを突破させるパスを成功。もし右サイドだったら、FC東京時代のチームメイトの室屋成が右サイドバックで先発していただけに、簡単に呼吸も合わせられたはずだが…。

 限られた状況の中、久保はできることをしていた。

 では、結果が出なかったのはなぜか?

チームとしての不具合

 率直に言って、森保ジャパンは組織として潤滑に機能していなかった。ノッキングを起こしていたカメルーン戦の前半よりは改善されていたものの、やはりコートジボワール戦も前半は攻守のバランスが悪く、後ろが重たくなってしまったり、前がかりになり過ぎてしまったりしていた。前線のスピードのある選手へ、単純に長いボールを蹴り込むことが多く、戦線は間延びし、コンパクトなラインを保てなかった。

 要因の一つとしては、中盤が守備の不安を抱え(カバーする関係性が乏しく)、前線とバックラインを引きつけ、戦いを締められるだけの力が乏しかったのはあるだろう。その点、長谷部誠は全体を補完するような役割をし、バランスを整えていた。それがポジション的優位につながって、相手にアドバンテージを与えなかったのである。

 そして後半、日本は徐々にペースを上げた。コートジボワールに疲れが出て、主力が変わったのはあるだろう。日本は、南野拓実、原口元気を投入し、前線と中盤とバックラインの距離が締まり、パスもつながるようになった。もっとも、終盤は前に手数を掛け過ぎ、中盤で広大なスペースを与えていた。セカンドを拾えず、ボールを持ち込まれ、危険なカウンターを何度も浴びたが、失点しなかったのは僥倖だろう。最後の最後で勝利を収めたことは、どのような形にせよ、朗報だが…。

 試合の流れと久保の交代が重なってしまったのだ。

過酷な要求は正当か

 チームとして受け身にならざるを得ず、可能性の乏しい長いパスが多く、久保に対して効果的なパスが入る回数は少なかった。各選手のポジションがずれているため、効率的な二次攻撃も不発。戦術的に、持ち味が出せない状況だった。

 チームが集団として機能していなかったのは、カメルーン戦から続いている。前半と後半でテンポが違い過ぎるのも含めて。もちろん、ほぼ1年ぶりの代表戦で、欧州組だけの特殊な状況での試合だけに、完全に組織として機能させることなど無理があるだろう。

 それだけに、一人の選手がプレーで突出しなかったとしても、慎重な分析が必要になる。得意ではないポジションで、エースのような役割を求められ、チームの不具合まですべて解消し、勝利に導け、というのはあまりに酷な要求だろう。プロサッカーに年齢は関係ないが、久保が若く、経験が浅いのも事実だ。

「レオはまだまだ学ぶべきことがある。彼は若いし、これから上達していく。それだけの知性を持っているし、野心も持っている。僕らもサポートするしね。何の問題もない」

 筆者がシャビ・エルナンデスにインタビューしたとき、当時19歳だったリオネル・メッシについて、話していた言葉である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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