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日本人サッカー選手の長所。久保建英だけではない

小宮良之スポーツライター・小説家
ビジャレアルでプレーする久保建英(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

日本人選手が評価される点

 欧州サッカー関係者が、日本人サッカー選手の特性で高い評価を与える点がある。

「俊敏性と技術の融合」

 キュッキュッと鋭角に動けるクイックネスというのか。ボールタッチも細やかで、両足が使える。アフリカ人選手のようなスプリント力やヨーロッパの選手のようなパワーはないが、テクニカルな機動力でアドバンテージを取れる。その特性をコンビネーションの中で用いることによって、サイドから守備を崩すだけでなく、ゴールも狙える。

 久保建英(ビジャレアル)は、その筆頭格と言えるだろう。

久保の凄み

 久保は間合いの取り方がうまい。相手を誘うように止まれる。すべてのプレーがゴールに結びついており、連続性を感じさせる。

 例えば今シーズン2節、エイバル戦も終盤の出場ながら、左サイドでロングボールを収めるとドリブルを開始し、マークに付かれていたが、一旦スピードを落とし、そこから一気の加速をすることによって、緩急の差で相手を奈落の底に落としていた。抜け切った後、左足で送ったシュート性のクロスはわずかに合わなかったが、非凡さを感じさせた。

 他にも、中島翔哉(FCポルト)、堂安律(PSVアイントホーフェン)、乾貴士(エイバル)、安部裕葵(バルサB)、三好康児(アントワープ)、食野亮太郎(リオ・アヴェ)、伊藤達哉、中村敬斗(シント・トロイデン)など、「俊敏性と技術の融合」の資質を持った欧州組は枚挙にいとまがない。彼らは日本サッカーのストロングポイントと言える。

 では、次に欧州に進出する日本人サイドアタッカーは誰か?

松尾のゴールへの駆け引き

 今シーズンのJリーグで注目すべきは、松尾佑介(23歳、横浜FC)、坂元達裕(23歳、セレッソ大阪)の二人だろう。

 松尾はスピードをベースにしているが、そこに依存していない。左サイドを主戦場に、常に相手との駆け引きで、優位なプレーを選択。タイミングを司っている。

 湘南ベルマーレ戦では、前半15分のプレーにその可能性が集約されていた。トップの選手が下がってボールを受けた瞬間、松尾は入れ替わるように裏に走り、スルーパスを受けている。一気に加速して相手ディフェンスを置き去り、追走する選手を交わし、さらにGKとの駆け引きでゴールネットを揺らした。目を引くのはスピードだが、走り出すタイミングやボールコントロールの質も非常に高い。

 そして松尾はふてぶてしいまでに、久保と同じくすべてのプレーがゴールに結びついている。

 相手の裏を取る動きは、ゴールから逆算し、うまく見えるプレーに溺れることがない。その点、周りを使うのがうまく、使われるのもうまい選手と言える。それがコンビネーションプレーで相手を幻惑させる。戦力的には劣勢を強いられるリーグ戦、J1デビューシーズンでチーム最多の4得点は立派だ。

坂元の変幻

 その点、坂元も似ている。右サイドでポジション的優位を保ちながら、常にゴールに向かっていく。縦を切られたら中へ、中を切られたら縦へ。左利きだが、左右両足を操れるだけに、プレーの選択肢が豊富だ。

 横浜F・マリノス戦での1対1は圧巻だった。左足で中に切り込むと誘って、ディフェンスの重心をずらす。そこから一気に盾に切り込むことで逆を取って、右足で完璧なクロスを折り返すと、味方の決勝点をアシストした。

 二人に追随するのが、三苫薫(23歳、川崎フロンターレ)だろう。日本人としては大柄なドリブラーで、間合いが広い。それによって、スピードの落差を生かせる。体を入れ、前に出られることで、強く精度の高いシュートが打てる。そのプロセスで周りも見えているので、多くの選択肢を持ち、適切な判断ができている。守備の課題はあるが、ストロングな側面が目を引く。

 川崎が首位を独走する理由としては、三苫、旗手怜央、そして齋藤学などを左サイドだけで使い分けられる点にある。

日本のストロング

 そして、西川潤(18歳、セレッソ大阪)は大器だろう。プレーセンスだけを考えれば、世界的にも同年代では傑出している。昨年の久保のようになっても、不思議ではない。左足のボールタッチは繊細で精度が高いが、動きそのものはダイナミズムを感じさせる。サイドアタッカーの枠に収まらず、どのポジションからもゴールに向かう迫力があり、同時に周りも使える、いわゆる0トップの人材だろう。FCバルセロナのスカウトがほれ込んだのも当然だ。

 日本人として大きな体を使い、リーチを生かしたキープや突破ができる。瞠目すべきは、加速からブレーキをかけ、一気に加速する緩急で、相手を置き去りにする技量だろう。久保のプレーと既視感がある。 

「俊敏性と技術の融合」

 日本は、それを基調に違いを見せられる選手をこれからも生み出すだろう。すでにその土壌はある。それは日本サッカーのストロングと言えるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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