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元世界最高MFシャビ・アロンソが語る久保建英「レアル・マドリーでの可能性」

小宮良之スポーツライター・小説家
マジョルカで中心選手になった久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

久保の目覚ましい成長

 3月7日、エイバル戦。マジョルカの久保建英は先発出場し、ビジャレアル、ベティス戦に続く今シーズン3得点目を決めている。

 77分、久保はディフェンスラインの前でパスを受ける。二人の敵が目の前に立ち塞がった。左に回った味方にパスするのが安全策だろう。しかし、彼は躊躇せずに利き足ではない右足を強く振った。ボールは相手の足をかすめ、ポスト内側を叩きながら、ゴールラインを越えた。

 シューターとしての素質を感じさせる得点だった。それだけではない。味方からパスを集め、それを自ら蹴り込むだけの信頼と胆力を見せつけた。このゴールが、決勝点になった。

 久保はすでにマジョルカの中心的選手になっている。一部マスコミは数試合先発を外れただけで、不信感を募らせていたが、その実力は群を抜いている。ベティス戦で先発に抜擢されると、1得点1アシストで完全に相手を翻弄し、批判をひっくり返した。

「Tirar del carro」

 それはスペイン語で「荷車を引く」という意味から転じ、「先頭に立って引っ張る」というリーダーシップを表すが、彼は今や勝利をもたらすエースと言える。リーガエスパニョーラでも有数のアタッカーの一人となった。18歳とは、とても思えない。その成長ぶりは、瞠目に値する。

 では、強豪レアル・マドリーでプレーする可能性はどこまで高まってきたのか。

シャビ・アロンソが語った久保

 昨年10月、筆者はレアル・ソシエダのBチームで指揮をとるシャビ・アロンソを訪ねた。

 シャビ・アロンソは世界最高のMFだった。レアル・ソシエダ、リバプール、レアル・マドリー、バイエルン・ミュンヘンでプレーし、欧州チャンピオンズリーグは2度優勝など、数々のタイトルを手にした。スペイン代表としても、2008,2012年の欧州選手権、2010年のワールドカップで戴冠。戦術的に慧眼で、ピッチ中央でチームの攻守を動かすことができた。50メートル超のロングパスをぴたりと合わせ、その精度は語り草だ。

 寡黙だが、その言動は、どの選手よりも信用されたと言われる。

 そのシャビ・アロンソは、久保をどのように評価しているのか。

――レアル・マドリーで華々しいキャリアを送ったあなたから見て、久保建英は成功できるだろうか?

 シャビ・アロンソは、その質問に丁寧に答えてくれた。

「すべての久保のプレーを見たわけじゃないから、詳しいことは言えない。マドリーでのプレシーズン、カスティージャの試合、そしてマジョルカの試合も少しだけ見たよ。『才能はあるか?』と聞かれたら、『間違いなくある』と答えるだろうね」

 彼は、そこで一拍を置いて続けた。

「ただ、戦える選手かどうかは、これからピッチに立って、久保自身が証明するしかない。チームを勝たせる貢献ができるか。そこがカギになる。でも、”違いを出せる選手”ではあるだろう。焦らず、じっくりと少しずつ前に進むべきだね。彼が持っている才能をピッチで出せるようになったら、自ずと結果は出るはずだ」

久保の存在感

 シャビ・アロンソが語ったように、久保は自らの才能を証明しつつある。

 エイバル戦の得点直前のプレーだった。久保は自陣からドリブルで一気にゴール前へ殺到している。3人を前にしても、少しも怯んでいない。結局、タックルで止められたが、それが波状攻撃につながっていた。彼が放つ気迫のようなものが、チームに伝播していたのだ。

「久保にとって、守備面ではベストゲームではなかった。センスの高さを示せたのは素晴らしいが、1点とっても、3点奪われたら、あまり意味がない。まあ、今日は得点したわけだから、いい働きだったと言えるが」

 マジョルカのビセンテ・モレーノ監督は自重して言うが、久保の存在はチーム内で思った以上に大きくなっている。

 エイバル戦、防戦一方になっていた40分過ぎ、久保はボールを持って敵陣に突っ込んでいる。一度倒された後、すぐに立ち上がって勝負を仕掛け、再び倒され、今度は完全なファウルだった。ドリブルのタッチ数が細かく、あえて相手に足を出させて、抜け出す。居合術のようなドリブルで、鞘に収めた刀を相手次第で抜き放ち、攻撃をいなし、二の太刀で斬り続けた。

 そして、このFKを蹴ったダニ・ロドリゲスのキックが先制点を呼び込んだ。

シャビ・アロンソのエール

 エイバル戦、試合を動かしていたのは久保だった。前線で見せるキープ力も舌を巻くほどで、ファウルでしか止められない。それで時間を作り、攻撃こそ防御なり、を体現していたのだ。

「マドリーでのプレーは秒読み」

 現地記者の間では、その噂が流れ始めている。根拠がない話ではない。それだけの実力を示しているのだ。

 もう1シーズン、上位のチームで腰を落ち着けてプレーする方が、結局は近道にも思える。噂が出ているレアル・ソシエダは理想的なチームかもしれない。ただ、久保は想定を超えてきただけに…。

 最後に、シャビ・アロンソはこうエールを送っている。

「マドリーでプレーすることは簡単ではない。周りの要求はすごく高いし、他のクラブと違って、満足してもらえることなんてないからね。重い責任を背負い続けながらプレーできるか。そのメンタリティが必要だろう」

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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