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2019年Jリーグベストイレブンにふさわしいのは?「チームプレーヤー」がカギ。

小宮良之スポーツライター・小説家
2019年シーズン、トーレスの引退試合でイニエスタが見せたプレーは圧巻だった(写真:フォトレイド/アフロ)

 今シーズンのJリーグは、かつてないほどの拮抗した戦いになった。

 有力クラブから、多くの日本人選手が欧州に新天地を求めたことは一つ影響したか。シーズン中でも、久保建英(FC東京)、安部裕葵、鈴木優磨、安西幸輝(鹿島アントラーズ)、天野純(横浜F・マリノス)など日本代表候補選手たちが続々と移籍。戦力差が縮まり、群雄割拠の様相を呈した。

 しかし戦いを重ねる中、輝きを放った選手たちはいた。

 2019年Jリーグベストイレブンにふさわしいのは、どの選手か?

GKは外国人選手が違いを示した

 GKは、能力ではポーランド代表歴があるベガルタ仙台のヤクブ・スウォビクが群を抜いていた。ジュビロ磐田のポーランド人GKカミンスキー以上のゴールキーピング技術。仙台の残留成功に一役買った。ただ、スウォビクはシーズンを通して戦ったわけではない。

 浦和レッズの西川周作は、過去最高のゴールキーピングを見せたとも言える。チームの不振で失点は多かったが、彼の責任は少ない。足技ばかりがクローズアップされてきたが、安定感を見せた。

 しかし、ベストGKはランゲラック(名古屋グランパス)か。失点は多かったが、それ以上にビッグセーブも目立った。残留できたのは、彼の貢献が大きく、チームを救った選手と言える。

チアゴ・マルチンスはリーグMVPに値する

 DFは、右サイドバックとして室屋成(東京)。技術的な拙さは見せたが、ミスした後にリカバリーする能力は際立っていた。試合の中で成長するタイプと言える。心が折れず、ミスの後に決定的な仕事をする機会が多かった。

 センターバックは、ヴィッセル神戸のベルギー代表トーマス・フェルマーレンが突出したプレーを見せた。特にサガン鳥栖戦でアンドレス・イニエスタと調和したプレーは、ワールドクラスだった。左センターバックとしては「Jリーグ史上最高のセンターバック」とも言えるが、シーズン途中の加入のため、選外にした。

 センターバックは、チアゴ・マルチンス、畠中槙之輔(横浜F・マリノス)、森重真人(東京)の3人を選出。左サイドバックは該当者なしとした。

 チアゴ・マルチンスは攻撃的チームで、難しい役割を高い次元で果たしていた。弱点が少ないディフェンダーで、ビルドアップも試合を重ねるたび、上達していった。終盤は、まさに盤石だったと言える。

 畠中はチアゴ・マルチンスと組むことで、能力を引き出されていった。もともとボールプレーに長けた選手だが、守りのリズムも身につけた。代表に入ったのも当然だろう。

 森重はもともと万能なディフェンダーで、能力値は高かった。しかし天才性が故のムラっ気も持っていた。それがポカにつながったが、今シーズンは非常に少なかった。

橋本は東京をけん引

 ボランチは橋本拳人(東京)、三竿健斗(鹿島)の二人だろう。

 橋本は、長谷川健太監督率いる東京の軸になっていた。彼が守備のフィルターになることで、バックラインは攻撃を正面から浴びることはなかった。ポジション的優位を確保し、周りの動きを補完し、攻撃でもアドバンテージを作っていた。日本代表でも、長谷部誠の後継者に近い存在か。

 三竿は、主将腕章を巻くなどリーダーシップも見せた。ボールを奪い取る能力が着目されるが、技術も高く、ボールを動かせる。橋本と違い、非常にアクティブな印象のボランチだ。

イニエスタは格が違うプレー

 攻撃的なMFとしては、イニエスタ(神戸)、水沼宏太(セレッソ大阪)の二人を推したい。

 イニエスタは出場時間こそ限られていたが、絶対的なスペクタクルだった。チームが少々不調でも、彼がピッチに立った時の神戸はプレーが動いていた。とにかくボールを失わない。周りを輝かせる能力は抜群で、古橋享梧のプレーを覚醒させている。

 水沼は、ロティーナ・セレッソの戦術的中心になっていた。右サイドを中心に、ポジション的優位を構築。チームプレーに徹しながら、チーム最多の7得点を記録した。33節、清水エスパルス戦のロングシュートは格別だった。

 トップは、仲川輝人(横浜)、ディエゴ・オリヴェイラ(東京)の二人だろうか。優勝争いを演じた両チームのエース。神戸のダビド・ビジャ、古橋も捨てがたいが、チームの順位を考慮した。

 仲川は攻撃的サッカーの仕上げのピースとなった。一人で崩せる力があり、決定力もあるだけに、違いを作り出せた。終盤は5試合連続得点など、15ゴールと得点王争いトップ。戦術的感覚にも優れ、ピッチのどこにいても、コンビネーションで打開し、賢さも示した。

 オリヴェイラは、東京の戦術キーマンだった。前線からのプレスだけでなく、ブロックを作った時には積極的にプレスバック。相手の攻撃をつぶした後、敵陣に殺到できる強度も図抜けていた。

新人王は・・・

 最後に、川崎フロンターレの田中碧は、「新人王」に値するプレーだった。ボールプレーヤーとして卓抜。技巧的だが、体も大きく、守備で五分五分のボールを競り合えるなど、現代的なボランチと言える。

 選出した選手は、いずれもチーム戦術の中で力を示した。彼ら自身が、戦術を運用していたとも言える。その点、圧倒的な個人というよりは、「チームプレーヤー」と呼べるような選手が目立つシーズンだった。

 2020年シーズン、さらなる台頭が楽しみだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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