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久保建英など6人の日本代表。スペインサッカーの奥深さ

小宮良之スポーツライター・小説家
ヘディングで競り勝つ久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 スペインのサッカーニュースは日々、日本にも伝えられている。レアル・マドリー、FCバルセロナは一つのニュースコンテンツ。久保建英(マジョルカ)、乾貴士(エイバル)、香川真司(サラゴサ)、岡崎慎司(ウエスカ)、柴崎岳(デポルティボ・ラコルーニャ)、安部裕葵(バルサB)など日本代表選手についての動向にも関心は高いだろう。

 しかしながら、ほとんど日本で報道されないニュースで、世界最高峰スペインリーグの中身は構成されている。

 例えば10月27日、ジムナスティック・タラゴナが2―1で敵地で手痛い黒星を喫した。降格した2部Bで、さらにその下へと降格圏に沈んでいる。実質3部リーグで苦闘するチームについては、スポーツ紙の現地版で報じられるのみだ。

 しかしその小さなニュースよってのみでも、スペインフットボールの奥の深さが伝わる。

タラゴナでの鈴木大輔の奮闘

 筆者は2016―17シーズン、鈴木大輔のルポを書くため、スペインでその姿を追いかけている。

 鈴木は当時1部昇格を目指し、プレーオフまで戦ったタラゴナの主力だった。入団したばかりにもかかわらず、すぐにポジションをつかみ取り、守備の柱としてタラゴナをリーグ3位に導いていた。日本ではあまり伝わらなかったが、一つの壮挙だった。

 結局、タラゴナは1部昇格を逃し、主力はそれぞれ新天地を求めている。

 ただ、多くの者たちがその夢をつないでいる。当時の監督だったビセンテ・モレーノは、今や1部のマジョルカを率いる。成績不振でタラゴナを解任された後、2部Bに落ち込んでいたマジョルカで再スタートし、1年で2部に上がり、2年目で1部に昇格した。そして同じくGKのマノーロ・レイナも、タラゴナの守護神からマジョルカの守護神になった。安定したゴールキーピングで昇格に貢献し、今も活躍を続ける。

 一方、タラゴナが当時1部昇格を争い、勝利したオサスナの主力だったミケル・メリーノとは、1部レアル・ソシエダの取材で再会した。

 メリーノは当時、左利きの若手ボランチとして高い評価を受け、昇格の立役者だった。ドイツの競合ボルシア・ドルトムントに移籍することになったが、出場機会を得られず。プレミアリーグのニューカッスルでも苦しみ、スペインに戻ってきた。そしてレアル・ソシエダでは上位争いをするチームで、司令塔を任されている。

 選手は流転の中、居場所をつかんでいるのだ。

選手の流転

 もっとも、昇格できなかったタラゴナはその後、喘いでいる。降格しただけでなく、今や3部リーグ(実質4部)降格の危機に瀕し、下降線をたどる。厳しい勝負の世界、敗者に容赦はない。

 しかし、這い上がる仕組みもそこにはある。

 スペインの2部Bは日本のJ3に当たるが、4つもある。3部リーグはJFLに相当するが、18もある。這い上がるためのネットがある。長いシーズンを戦い、1位になっても、昇格できるとは限らないわけで、厳しい生存競争だが、再起の道はたくさん揃えられている。だからこそ、下部リーグからのシンデレラストーリーもあるのだ。

 事実、マジョルカの選手たちは2年で2部Bから1部へ這い上がっている。

「多くの人が自分のプレーを見て、知ってもらえるようになった。1部に昇格してからなかなか先発でプレーできなかったが、その経験が自分を強くしたと思う。もう、あの頃には戻らない」

 マジョルカのフラン・ガメスという選手の言葉である。彼自身、以前の主戦場は2部Bだった。

シャビ・アロンソは監督に

 絶え間ない競争が、この国のサッカーの土台と言える。

 今年10月、今シーズンからお披露目になったヨハン・クライフスタジアムでは、バルサBの若手選手たちが力闘していた。日本人初の選手、安部裕葵もスタンドの歓声を受け、際どいボレーシュートがあった。20歳前後の選手たちは、時代を変えるだろうか。スタンドには神童、16歳でバルサのトップデビューを飾ったアンス・ファティも観戦に訪れていた。

 レアル・ソシエダの練習場では、かつて世界最高のMFと言われたシャビ・アロンソが、セカンドチームの監督を務めていた。若い選手と蹴るボールの質は、今なおとびきりだった。しかし、彼は指導者としての道を歩んでいた。

「ヨハン・クライフが言っていたことだけど、『1番美しいのは、選手としてプレーすること。2番目に美しいのは監督』。私もそう思う。いまは違う形だけど、選手を通じてサッカーを楽しんでいるよ。目標は設定していない」

 確実に時代も流れている。彼はスペインで新たなフットボールの潮流を指導者として作るのか。それも、この国のフットボールの懐の深さと言える。

 18歳の久保は、マジョルカでややプレーが停滞している。しかし、一喜一憂する必要はない。彼はアタッカーで、いっぺんで人の見る目を変えられる。そこから突っ走っていくだけの力量は持っている。

 そしてタラゴナを去って帰国した鈴木はJリーグ、柏レイソルに戻った後、浦和レッズに移籍した。今シーズンは、アジアチャンピオンズリーグ決勝進出に貢献している。アジア王者へ、あと一歩のところまで来た。

 世界のどこであってもーー。挑み続けることで、フットボールの航路は開かれるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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