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3バックよりも2トップを試すべきか。大迫勇也の代役を考察

小宮良之スポーツライター・小説家
トリニダード・トバゴ戦、シュートを放つ大迫勇也(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 トリニダード・トバゴ戦、森保JAPANは新たなフォーメーションで戦っている。森保一監督は、これまで用いてきた4バックではなく、3バックを採用。3-4-2-1はウィングバックが特長と言えるか。幅、深さを取れ、守備に回ったときに人を厚くし、カバーでも優位に立てる面がある。世界との戦いに向け、選択肢を模索するべきだろう。

 しかし現状は、ちぐはぐさばかりが目立った。日本はコンビネーションを使った速い攻撃を得意とするが、前線の選手が足りず、崩し切れていない。サイドチェンジのパスはしばしば流れ、タッチラインを割った。守りも、ウィングバックが下がるとお尻が重くなり、相手にスペースを与えていた。

 はたして、3バックは日本人に適したシステムなのか?

3バックは現実性の高いシステムか

 3-4-2-1は、ロシアW杯で日本が敗れたベルギーが採用している。

 ベルギーは、このフォーメーションに合ったキャラクターの選手を多く擁する。まず、フィジカル的に抜きん出た3枚のセンターバック。ヴァンサン・コンパニなど、いずれも高さ、強さで引けを取らない。ウィングバックには走力で相手を圧倒できる選手を配し、1トップにロメル・ルカクのように一人でボールを収め、前を向いてシュート、もしくは周りも使える万能型の大型FWを配置。シャドーのエデン・アザールは、カウンターから一人でフィニッシュまで可能な速さと力強さと技術を兼ね備える。

 ベルギーは、この戦術システムに適しているチームだ。

 一方、日本の選手もスピードには優れる。俊敏性と技術レベルの高さ。その二つを高い次元で融合させたコンビネーションで相手を上回る。

 しかしスピードは爆発的ではないし、パワー主体のプレーを得意としない。事実、ベルギー戦は、圧倒的な高さのあるマルアン・フェライニ、爆発的な走力を誇るナセル・シャドリを投入され、目を覆う混乱に陥った。高さ、強さに対し、やや弱さを抱える。

 森保監督はサンフレッチェ広島で3バックを用い、Jリーグ王者になっている。酒井宏樹、長友佑都は、ウィングバックとしても機能するだけの能力を備える。落としどころはあるはずだ。

 ただ、森保・広島がアジアチャンピオンズリーグで不振だったように、世界と対峙して日本人が3バックを運用する場合、パワー、高さ、スピードに弱点を抱える。そもそも、所属クラブで3バックをプレーする選手が、現代表メンバーではほとんどいない。適応には相応の時間がかかるはずだ。

 戦術的バリエーションを加えるなら、3バックよりも2トップが優先かも知れない。

2トップを試す価値

 森保監督は、大迫勇也、南野拓実の二人を前線で使ってきた。二人のキャラクターを考えた場合、2トップというよりも、1トップ+トップ下に近い。南野は得点力の高いMFと言えるか。ともあれ、二人が両サイドの中島翔哉、堂安律と連係を結び、強豪ウルグアイにも互角の戦いを演じている。

 しかし、そこで懸案事項が生じた。

「大迫の代役がいない!?」

 今年1月のアジアカップ、大迫がいるときといないときでは、まるでプレークオリティが違った。アジアカップで起用された武藤嘉紀(ニューカッスル)や北川航也(清水エスパルス)は代役をこなせず、メンバーから外れた。二人は気の毒だろう。1トップで、大迫と同等のポストワークができる日本人FWはいないのだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20190203-00113420/

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20190402-00120599/

 そこで、ストライカータイプを二人並べる2トップは一考の余地があるだろう。

2トップの勝利

 今シーズン、J1リーグ13節、サガン鳥栖対鹿島アントラーズは象徴的だった。鳥栖は豊田陽平、金崎夢生という2トップを採用。二人は鹿島のセンターバック二人と、前半から無骨に荒々しくせめぎあった。守備の先鋒として、パスコースを限定し、前線からビルドアップを封鎖。そして豊田は空中戦でハイボールの競り合いを何度も挑み、跳躍で体力を削り、金崎は裏を狙って走り、脚を使わせた。

 後半アディショナルタイムだった。鹿島のセンターバックがジャンプしきれず、クリアが甘くなる。それを拾った鳥栖の選手が裏にボールを出し、味方が走り込む。もう一人のセンターバックが追走も、出足が悪く追いつけない。鳥栖の選手の折り返しを、フリーで飛び込んでいた豊田が左足で決勝点を押し込んだ。

 鳥栖はアジア王者である鹿島の攻撃を後ろで受けて立ったら、厳しい戦いを余儀なくされていただろう。しかし2トップが前線で奮闘。二人の攻守を旋回軸にした勝利だった。

FWを並べるメリット、デメリット

 センターフォワードを二人並べるのは、メリット、デメリットがある。

 点を取ることに秀でた選手はしばしば、技術と連係のスピードや精度は落ちる。決して器用ではない。点取り屋は独善的な部分も持っている。

 しかし、FWが前線にいる利点はある。たとえボールがつながらなくても、相手にダメージを与えている場合があるのだ。

「パスの出し手にとっては、ストライカーがいる方が選択肢は多い」

 かつて“スペインのジダン”と言われた天才的MF、ファン・カルロス・バレロンはそう言って、ストライカーの重要性を説いていた。

「スキルの高い選手を揃えることで、コンビネーションは高まる。しかしパスをつなげているだけでは、相手に読まれる。FWがゴツゴツと相手センターバックとぶつかり合い、強引に持ち入ろうとしたり、シュートを狙うことで、肉体的にも精神的にもディフェンスを疲弊させられる。90分を戦う上で、これが物を言う。おかげでパスコースも生まれる。守備陣も助かる。たとえ不器用でも、FWがいる方がベターだ」

ロシアW杯、ベルギー戦の轍を踏まない

 戦術バリエーションを増やし、大迫の代役探しも解決するには――。2トップの選択は一つのヒントになる。

 そのための人材がいないわけではない。岡崎慎司(レスター・シティ)、知念慶、小林悠(川崎フロンターレ)、永井謙佑(FC東京)、北川、武藤はむしろ2トップの組み合わせで力を発揮するタイプだ。

 3バックを(ウィングバックを下げて)5バックにし、守備を分厚くする、というのは一つの発想だろう。ただ、ベルギーのような攻撃力のあるチームの猛攻を防ぐのは難しい。高さや強さが足りない日本の場合、押し込まれた展開を"籠城戦"で跳ね返せる可能性は低いだろう。プレッシングでも、リトリートでも、前線から相手と鎬を削り、ようやく五分に戻せる。

 その点、2トップは一つの戦術バリエーションとなる。今シーズン、Jリーグで首位を走るFC東京も2トップを採用。久保建英、橋本拳人、室屋成など最多4人が選出されている。

 6月9日、仙台。エルサルバドル戦、森保JAPANは3バックが有力と言われる。今後も試行錯誤は続く。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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