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背水のベイル。クラシコで名誉挽回となるのか。

小宮良之スポーツライター・小説家
語学力の問題もあって、孤立を深めるベイル(写真:ロイター/アフロ)

 2月24日、リーガエスパニョーラ第25節で一つの事件が起きている。

 レバンテ戦、レアル・マドリーのウェールズ代表FWガレス・ベイルは、決勝点となったPKを冷静に決めている。しかし、その直後だった。チームメイトであるルーカス・バスケスが祝福に来たところで、邪険に手を振り払っている。誰も寄せ付けない表情で、怒っているかのようだった。これには、たまらずルカ・モドリッチが「どうしたんだ?」と怪訝そうに言葉を投げかけている。

 チームを不穏な空気にさせるほどの感じの悪さだった。

 なぜ、ベイルはこのような行為に及んだのか?

精神的に不安定なベイル

 ベイル本人は祝福を拒んだ理由を明らかにしておらず、様々な憶測を呼んでいる。

「先発から外れる試合が多く、いらいらしている」

「PKとは言えないようなPKを蹴らされたことへの不満だったのでは」

「バスケスはポジション的なライバル」

「マルセロ、クルトワがそれぞれのインタビューで、ベイルが英語しか話せないことをいじったり、『ゴルフ好きで家には穴ぼこが空いている』と暴露。陰で”ゴルファー”と揶揄されることへの腹いせ」

「直前のチーム決起夕食会にも『その時間は、もう寝ているから』という理由で参加せず、孤立している」

 どれももっともらしいし、どれも少しづつ、理由の一つなのだろう。

 たしかなのは、精神的に不安定になっている点だ。

アトレティコ戦でも、NG行為

 第23節アトレティコ・マドリーとの一戦で、ベイルは3点目を決めている。実は、このときのゴールパフォーマンスも批判の対象になった。一方の腕を折って、その拳を突き上げ、もう一方の手で袖を切るような仕草。それは性的侮辱も含み、公では決してしてはならないパフォーマンスである。

 チャンピオンズリーグで、ディエゴ・シメオネ監督が股間をつかんでゴールの喜びを表し、UEFAからベンチ外のペナルティを受けたが、それ以上の侮辱的なメッセージを含んでいる。

「数試合の出場停止もあり得る」

 そう危惧されたが、なんのお咎めもなしだった。

 しかし、ベイルが快調ではないのは歴然だ。

イギリス人とスペイン語

「ベイルはスペイン語を本気で習得すべきだ」

 周囲は言う。

 ウェールズ人ベイルのスペイン語レベルは、選手から漏れ出てくるように決して高くはない。スペインという国でスペイン語を話せないのは、とてつもないデメリットとなる。会話の中で信頼を高め合う文化があるからだ。

 なによりスペインでは、話せない人間をバカにする風潮がある。これは、ドイツ、オランダ、ベルギーにはない傾向だろう。余談だが、語学力に問題を抱える日本人選手が、かの国で数多く活躍し、スペインで苦戦しているのは、その点も理由がある。

 英語圏のイギリス人選手はスペイン語を習得するのに苦労する。「英語が世界の共通言語」という偏った認識も邪魔するのだろう。スペイン語を習得した選手はほとんどいない。デイビッド・ベッカム、スティーブ・マクマナマン、ジョナサン・ウッドゲイト、マイケル・オーウェンなど、いずれも片言だった。英語の発音でスペイン語を発音すると、コミカルに聞こえるため、それを揶揄して真似る風潮も悪いのだが(この点、日本語の方が正しいスペイン語の発音がしやすい)・・・。

スペインで人気のマイケル・ロビンソン

 ベイルも、先人たちと同じ苦労をしているのだろう。ポルトガル、イタリア、フランス語圏の選手なら、何も勉強しなくても分かる基本的会話(同じラテン語が基礎にあるため)も、英語圏の選手には分からない。イギリス人選手が海を越えて活躍するケースは少ないのは必然だ。

「スペインにおけるイギリス人選手最高の成功者は、マイケル・ロビンソン」 

 スペイン国内では、未だにこの意見は根強い。マイケル・ロビンソンは、日本では聞かれない名前だろう。オサスナで3シーズンにわたってプレー。実は記録自体は特筆すべきものではない。しかし引退後もスペインで住み続け、独特のスペイン語の言い回しが人気を集め、テレビ解説者として活躍しているのだ。

「スペイン語を話せるイギリス人」

 それだけで感じが良い。ロビンソンはイングランドのレスター生まれでイギリス人だが、代表としてはアイルランドを選択。イギリス人と括るのは微妙なのだが・・・。

問われるベイルの真価

 1億ユーロ(約130億円)の移籍金で入団したマドリーで、5シーズン目になるベイル。すでに100ゴール以上を叩き込み、記録だけで言えば、「スペインでプレーした最高のイギリス人選手」と言える。欧州3連覇にも大きく貢献。昨シーズン、チャンピオンズリーグ決勝では驚異的なゴールを決めた。

 しかしジネディーヌ・ジダン監督が去って、チームが安定感を欠く中、ベイルは真価を問われている。度重なるケガもあるが、力を出し切れていない。孤立した印象だ。

 復調には、やはり潤滑な意思疎通を欠かせない。

 ベイル本人は“事件”後も、平静を装っている。週明けの練習には元気な姿を見せ、チームメイトと冗談を言い合う雰囲気もあったという。次の試合となったスペイン国王杯準決勝前のツイッターでは、バスケスと手を合わせようとする瞬間の写真をアップ。イメージ改善に努めた。

 しかし、交代出場したときにはブーイングで迎えられている。チームメイトと連帯できない選手は、スペインでは決して認められない。プレーは精彩を欠き、シュートは枠を大きく外れた。ベイルが入ってから2失点し、チームも敗れ去った。

審判が下される

「なんでもかんでも話題にしすぎ。私はなんの問題も感じない」

 元スペイン代表監督のハビエル・クレメンテのように、世間の風潮を責める声もある。それも一理はあるだろう。突発的な行動とも言える。

 しかし言葉が通じず、疑心暗鬼になっているなら、その歪みは再び顔を出す。共闘を拒むなら、居場所はない。それがこの世界の鉄則だ。

「ベイルには審判が下された」

 3月1日、as紙はフロレンティーノ・ペレス会長がベイルに愛想を尽かし、売却を決めたという話を報じている。チーム一の1300万ユーロ(約16億9千万円)という高額の年俸もネック。売り時は逃せないということか。

 3月2日はクラシコ。世界中の注目が集まる。ベイルにとっては、またとない名誉挽回の舞台になる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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