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久保建英に待つ未来とは?世界で台頭する十代ルーキー

小宮良之スポーツライター・小説家
ヴィッセル神戸戦で得点を決めた17才、久保建英(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 久保建英、17才が注目を浴びている。同年代では、その能力は突出。横浜F・マリノスへの移籍直後、天皇杯のベガルタ仙台戦ではいきなり先発で出場し、ゴールをアシストした。さらにJ1初先発となったヴィッセル神戸戦では、偉大なアンドレス・イニエスタの前で決勝点を記録している。

 しかし、久保が単なる早熟タイプなのか、偉大な選手への第一歩を踏み出したのか――。それは、これから彼自身が証明することになるだろう。

 久保のように、十代で迸りを見せている選手は世界中にいる。若々しい輝きは、一瞬で消えてしまうこともあるだけに、多くの人を魅了するのだろう。ルーキーならではの儚さと無限を同時に感じられるのだ。

ネイマールを越える天才?

「メッシ・ロナウド時代」

 そこに風穴を開ける若手は誰になるだろうか?それは大きな関心事になっている。

 筆頭は、キリアン・エムバペ(19才、パリ・サンジェルマン)かもしれない。周りがスローに見えるような神懸かったスピードが武器。高速プレーの中でのスキルも特筆に値する。ロシアW杯でも活躍を遂げ、アルゼンチン戦のパフォーマンスは圧巻だった。

 W杯デビューも果たしたエムバペに継ぐ才能とは――。レアル・マドリーの18才、ヴィニシウス・ジュニオールの名前を挙げたい。

 ヴィニシウスは17才にして、名門フラメンゴでレギュラーとしてプレー。ペレ、ロナウド、ロナウジーニョ、ネイマールらブラジルを代表する英雄たちの系譜を継ぐ選手と言われる。ブラジル人選手らしく、プレーに遊び心が溢れる。両足を巧みに使い、誘い込んでボールを浮かせ、かわすなどのテクニックはすでに極まっている。そして並外れた身体能力を持ち、スペースをドリブルで駆け上がるときの加速は他を寄せ付けない。

「18才で、世界最高のクラブにたどり着いた。これから自分の実力を、監督や選手に示すだけだ」

 ヴィニシウスはそう明かしているが、野心も旺盛だ。

 マドリーはフラメンゴに、4500万ユーロ(約60億円)の移籍金を支払った。十代の選手にこれだけの大金を投じるのは異例のことだろう。クリスティアーノ・ロナウドが移籍した後、最有力エース候補と考えているのだ。

イニエスタに迫る天才MF

 ヴィニシウスに追随するルーキーは、各国に生まれている。フィル・フォデン(マンチェスター・シティ)、ナビ・ケイタ(リバプール)、マテオ・ゲンドゥジ(アーセナル)、ジェイドン・サンチョ(ボルシア・ドルトムント)、フラン・ベルトラン(セルタ)などだろうか。

 そこで伏兵的に取り上げておきたいのが、19才のMFリキ・プッチである。バルサの権化のような選手で、プレーメイキングする才能はピカイチ。ジョゼップ・グアルディオラ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタの後継者と言える。そのビジョンと技術の高さは傑出。周りの選手を輝かせ、プレースピードを上げ、チームを勝利に導く力を持っている。

 プッチはバルサBの選手として出場した開幕戦で、エリア内に突っ込んでボールを受け、それを後ろ向きのヒールで残し、得点を演出。そのセンスは「神ヒール」と絶賛を受けている。

「自分はバルサで育った。そこで学んだやり方を知っていて、それを使ってプレーするだけさ」

 プッチはそう語っているが、近い将来、バルサを支える選手になるのではないか。

若い才能が育まれる"虎の穴"

 ヴィニシウスはブラジルらしさが横溢しているし、プッチはバルサの薫陶を受けている。彼らがどのように成熟していくのか、は確約できない。ただ、大成する選手と言うのは、一つのロジックがある。それについては小説「ラストシュート 絆を忘れない」(角川文庫)でも示唆しているが、それぞれの子供がそれぞれのやり方で、「自分と他者と向き合う」ことだろう。

 成功する選手はおしなべて、子供時代から自主的に行動を起こせるし、行動様式を確立している。

 その点、アスレティック・ビルバオのセンターバック、ペル・ノラスコアインは刮目に値する19才だ。開幕戦デビューを飾って、得点まで記録。技術が高く、堂々としたプレーを見せている。

 ノラスコアインは、バスク地方の"虎の穴"アンティグオコで育てられたのが特徴的だ。

 過去にハビエル・デ・ペドロ、シャビ・アロンソ、アリツ・アドゥリスなど数多くのスペイン代表の名手たちを輩出したアンティグオコは、トップチームが存在しない。若手を育て、売るという「育成クラブ」として経営している。結果に囚われすぎず、とことん技術を高め、体を鍛える。

 だからと言って、技術偏重主義でもない。なによりActitud(姿勢、振る舞い)を重んじる。それは、仲間を思う心であり、絆とも言える。その共闘意識の中で、自主性を高め、大人として行動できるようになるという。

花は咲き誇るか

 アンティグオコのように、地方独自の育成がある。だからこそ、世界各地でその土地独自の才能は生まれるのだろう。

 アジア人選手としては、久保以外にも台頭著しい選手がいる。韓国人アタッカー、17才のイ・カンインはスペインの古豪バレンシアでトップチームの練習に帯同し、デビューが待望される。イは久保と同じ左利きのドリブラーだが、そのプレーは力強く、韓国人らしさを感じさせる。FKも得意で、左足キックはトップレベルだ。

 しかし、プロは甘い世界ではない。

「久保君ではなくて、久保建英でお願いします」

 J1初先発で得点を決めた久保は、試合後に語った。試合を通じて流れから消えてしまい、まだまだ物足りなさを感じさせたが、その意気や良しだろう。荒野を生き抜く野心があるのだ。

 オトナになる中、十代で芽生えた才能のつぼみが萎むことも少なくない。しかし実戦経験の中で生き抜くことができたら、花は咲き誇る。その瞬間を見られたら、それは幸運と言えるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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