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西野ジャパン、ロシアW杯を勝ち抜く形は3バックか、4バックか。

小宮良之スポーツライター・小説家
ガーナ戦で3バックを組んだ長谷部、吉田、槙野。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 日本代表は、どんな陣形(フォーメーション)で挑むのか?

 その選択は、ロシアワールドカップの勝敗を左右することになるだろう。

 国内最後の試合となったガーナ戦は、3バックをテストする一方、終盤には4バックにしている。3バックは良い面もあったが、悪い面のほうが目立った。一つのオプションとしては悪くはないが、1トップに3人のセンターバックで相対することが、すでにミスマッチを起こしている。どこかで数的不利が起こるのは必然で、案の定、中盤は(後ろが重たくなって人数が足りず)劣勢に苦しんだ。

 結局のところ、陣形は相手次第、時間帯や状況次第、そして味方選手の顔ぶれ次第で、組み替える。その柔軟さが大きく物を言う。

 では、新たに試した3バックはどのような利点があるのか?

長谷部ありきの3バック

「3バックも悪いアイデアではない」

 代表スタッフがそう行き着いた一つの理由は、戦術の軸である長谷部誠が今シーズン、所属するフランクフルトで、3バック中央のリベロとしてプレーしているからだろう。長谷部はソリッドな守備を披露しただけでなく、攻撃の糸口にもなった。

「日本代表が守備的に戦うなら、悪くないオプション」

 そういう思考だろう。3バックは、両サイドの選手のポジションの取り方やスライドする形で、5バックとも言えるのだ。

 しかし、後ろに人が多くなることで、本当に守備力は向上するのか。

Jリーグでの3バック

 3-4-2-1のような陣形は、実はJリーグで近年、サンフレッチェ広島、浦和レッズ、そして今シーズンはコンサドーレ札幌が一つの結果を叩き出している。攻撃においては、ボランチがバックラインに落ち、両サイドの選手が押し出されるように高い位置を確保する。後方でのボール回しで数的優位を保ちながら、サイドから人がわき出るような攻撃を展開。守備では素早く帰陣し、5-4-1のような形で分厚く守る。

 このシステムの第一人者であるミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、常にJリーグで首位争いをしている。

「システム的に、プレスがはまらない」

 Jリーグでは対戦する多くのチームが、対応に悩んでいる。

 しかしこのシステムで戦ったとき、アジアチャンピオンズリーグでは悉く分が悪い。

 西野監督が用いた3バックは、ペトロヴィッチのやり方とはまるで違っていたが、根源的な弱みは同じ箇所にあるのだ。

3バックの弱点

 3バックは守りに回ったときに5バックになるわけで、人垣を築いて厚みを増したように見えるが、実は危うさを抱えている。

 まず、海外のチームのプレスは、ボールホルダーの前で止まらない。猛然とぶつかるような強度で、コンタクトを恐れないところがある。そのため、Jリーグでは回避できるプレスがはまってしまう。後ろに人がだぶついてパスの距離が短いことも、相手のアドバンテージとなる。

 ガーナ戦も、前半はハイプレスに四苦八苦している。

 もう一つは、高さ、強さの不安にある。

 Jリーグでは、放り込み戦術が進化していない。大柄な選手が少なく、クロスの質もヨーロッパのリーグと比べると低く、ショートパスをつなげる戦い方が定着しているからだろう。一方、海外チームには高く強さがあるFWがいて、クロスの精度の高い選手がいるのがベース。日本はこのクロス攻撃に脆さを抱える。

 慣れていないのもあるし、高さ強さで劣り、人は揃っていても防ぎきれない。終盤にパワープレーに持ち込まれると、今にも崩れそうな空気になる。全体のラインが下がると、パワープレーを浴び、こじ開けられる、もしくはクリアしきれず、こぼれを押し込まれる事故も起きやすくなるのだ。

 5バックで守り切るには、高さ強さに屈せず、クロスを跳ね返し、裏に走り込むFWをファウルなしで制するディフェンダーが必要になる。フランクフルトのディフェンスが機能しているのも、長谷部と組むセンターバックが条件を満たしているからだろう。サルセド、アブラアム、ファレットなど身長190cm近い、高さに自信のある選手がいるのだ。

 ガーナの先制点、槙野智章は敵FWに背後をとられ、後ろから乗りかかって、やらずもがなのFKを与えてしまっている。

日本人には4バックのほうが向いている

 吉田麻也、昌子源、槙野智章、植田直通・・・西野ジャパンに選出された日本代表センターバックは、海外の大型FWとも互角近く渡り合える。しかしパワープレーで高さ勝負になると、綻びが出る気配は漂う。とくにJリーグでプレーしているディフェンダーは、未体験の高さやスピードやずる賢さに、慌ててつかんだり、遅れて足が出てしまうことがしばしばだ。

 3バックは地雷を踏むようなものだろう。

 結論としては、代表として列強と戦うなら、4バックのほうが日本人には向いている。

 今シーズンのドイツカップ決勝、フランクフルトは4-4-2で、長谷部はボランチとしてのスタートだった。受け身になる時間は多かったが、プレッシングで出所を攪乱するタイミングなどは出色。3枚のラインの中心で、守備のバランスを保っている。

 後半に両サイドを崩され、5バックにしたときには一時的にリベロに入っている。しかし決勝点となる2点目のシーンでは、長谷部がボールを受けたコロンビア代表エース、ハメス・ロドリゲスのボディバランスを崩すことに成功。自陣で奪ったカウンターでゴールを生んでいる。

 長谷部は一つポジションを上げ、攻守を制御するべきだ。

バリケード戦術は通用しない

 重ねて言うが、日本人は後ろに張り付いて守る「バスを置く」と専門用語で呼ばれるバリケード戦術を得意としない。体格差から生じるパワー、スピードで分の悪さは明白。また、カウンタータイプのプレーヤーも少なく、ラインを下げたら自らの首を絞める。ポゼッションを守備としつつ、それが破れたら、前からのプレッシングとラインをコントロールしたリトリートで対処するしかない。

 攻撃も、4-4-2、もしくは4-2-3-1が選手の力を引き出す。ボールプレーヤーが多く、コンビネーションレベルも低くない。ガーナ戦で不在だった乾貴士が加わり、長友と左サイドでコンビを組み、そこにトップ下的に本田圭佑が絡んだら、得点の匂いは高まる。右サイドも、負傷明けの酒井宏樹が右サイドバックで、原口元気がサイドアタッカーに入れば、攻守の厚みを増す。トップは迷いどころだが、武藤嘉紀が切り札か。

 ともあれ、悲観する陣容ではない。

 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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