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列強に劣勢のロシアW杯、「守り」の切り札はスペインで研鑽を積む男

小宮良之スポーツライター・小説家
自軍のゴールをチームメイトと祝う鈴木大輔(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 今年6月のロシアワールドカップ、日本代表はいかに戦うべきか。ヴァイッド・ハリルホジッチから西野朗監督に交代しているが、試合プランはそこまで変わらない。コロンビア、セネガル、ポーランドとの戦力差を考えると、劣勢が予想される。その点、ディフェンスの強化は急務となる。

 切り札となり得る男は、スペインで研鑽を積んでいる。

「日本代表には、しかるべきタイミングがあって、きっと入る。今はそう信じています」

 昨年11月、鈴木大輔(27才)はそう言って、快活に笑っていた。

成長を続ける鈴木

 スペイン2部、ジムナスティック・タラゴナ(以下ナスティック)でプレーする鈴木は、スペイン挑戦3シーズン目となる。ファーストシーズンから右サイドバック、そしてセンターバックの座を確保し、昇格プレーオフも戦っている。2シーズン目は主力として34試合に出場。3シーズン目もチームの不振と度重なる監督交代によって先発から外れた試合はあるものの、ここまで21試合(スペイン国王杯を含む)を戦っている。

 スペインの2部は、日本代表で定位置をつかみつつあったMF井手口陽介がベンチ入りも苦しいほど、レベルは高い。単純なパスやコントロールのミスが目立つように映るかもしれないが、高いインテンシティでのプレーが要求された結果と言える。極めてタフなリーグ。例えば、ロシアワールドカップに出場するモロッコ代表正GKムニルがクラブではセカンドに甘んじる。2017年アフリカ選手権優勝のカメルーン代表正GKオンドアも2部でポジションを確保できていない。

 鈴木の所属するナスティックも、ナイジェリア、チリ、カメルーン、マケドニア、ジョージアの代表選手を擁する。猛者たちが集まるリーグ。オランダ、ベルギーなどの1部リーグと同等だろう。

ポリバレントというアドバンテージ

 厳しい環境で、鈴木はディフェンダーとしてユーティリティ性を発揮している。ポジションはセンターバックが中心だが、左右サイドバックやウィングバックまで経験。3バック、4バックにも対応している。

 柏レイソル時代から比較すると、プレーの幅は確実に広がった。

「(鈴木には)ボールを前に奪いに行くプレーに気迫を感じる」

 柏時代の監督であるネルシーニョが語っていたように、鈴木は当時からピッチで熱を放てるディフェンダーだった。しかし、フィーリングに頼るところはあって、そのせいでしばしばミスも出た。戦術面で論理的な動きに未熟さがあったのだ。

 しかしスペインでプレーを続ける中、戦闘力は間違いなく増した。

「悔しいな、マジか、と打ちひしがれるときもあります。毎日、一回はありますね」

 鈴木はスペインでの日々を語っている。

「でも、落ち込む時間が若いときよりも短くなって、感情が安定してきました。ここは耐えていれば、次にチャンスが来るなって思えるようになった。最近は学んでいることをマスターしたら、どうなるんだろう、って楽しみです」

 5人目の監督は戦術マニアだった。「戦術的な動きができていない」と指摘され、毎回練習後、1時間以上も二人で補習をした。練習中も、18才のルーキーのように一番、口うるさく言われた。しかし、彼は食らいついていった。「期待していない選手に、そんな手間はかけない」と楽観的に物事を捉えた。そして数試合後、戦術マニアを唸らせた鈴木は、先発を取り返したのだった。

日々アップデートされるチーム

 気の抜けない挑戦の日々は続いている。今年1月、ナスティックには9人の選手が退団で7人が新加入。チームは日々、ふるいにかけられている。生き残るだけで必死だ。

「ここでプレーしていたら、それはタフになりますよ。練習で少しダメでも、先発どころか、ベンチからも外される。毎日が戦いですから」

 そう語る鈴木は自ら試練に身を投じた。高額オファーを捨て、練習生として飛び込み、契約を勝ち取った。そして昨夏には中東UAEからの年俸3億円のオファーを蹴って、スペインでフットボールを追求している。ここまでの覚悟を見せ、異国でプレーを続ける選手は多くはない。

「欧州組」といわれる日本人選手は増えた。ただ、ディフェンダーに関しては珍しい。センターバックに関しては、吉田麻也以外にめぼしい選手がいないのが現状だろう。

 鈴木は、一つの選択肢になり得るはずだ。

最後の代表招集はアギーレ時代

 鈴木が代表で最後にプレーしたのは、ハビエル・アギーレ時代の2014年10月、ブラジル戦だった。ハリルホジッチからは一度も招集を受けていない。昨年、フランス人コーチが試合に訪れ、「いつもチェックしているから」とは励まされたものの、お呼びはかからなかった。

 鈴木は、ワールドカップに挑む即席チームという条件でアドバンテージを持っている。まずは、海外の選手たちと対戦することによって得た強さや柔軟さ。目まぐるしく監督や選手が替わる環境でプレーすることによって、適応力も育まれている。例えば、長谷部誠がフランクフルトでプレーしているようにリベロへ転向して3バックを組んだとしても、鈴木のユーティリティ性は生きるだろう。

 そして、代表の不動のセンターバックである吉田とは、ベスト4に進出したロンドン五輪でコンビを組んでいる。ワールドカップでパートナーとなったとしても、急造ということはない。また、右の酒井宏樹、ボランチの山口蛍などロンドンで共に戦っている。

「スペインに来て、めっちゃ、いい経験ができていると思います」

 そう語る鈴木は充実した戦いの日々を送っている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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