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ラスパルマス移籍報道も。鹿島MF柴崎にスペインでポジションはあるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
鹿島のMFとして天皇杯準決勝を戦う柴崎岳(写真:アフロスポーツ)

「鹿島のMF柴崎岳、スペインのクラブが移籍オファー!」

そんな報道が伝わっているが、情報ソースは主にスペインの「as」紙だという。コンタクトがあったのは間違いない。ただ、asに掲載されているのは正しくは「クラブがオファー」ではない。「(柴崎サイドから)クラブにオファーがあった」と書かれている。つまり、柴崎の代理人を通じ、「柴崎はどうか」という打診があったに過ぎない。

柴崎はクラブワールドカップ決勝で、欧州王者レアル・マドリーを相手に2得点を決めた。それはスペインで名刺代わりになるだろう。asの記者も、そういう事実があったからこそ、大々的に報じた。

では、柴崎はスペイン、世界最高峰リーガエスパニョーラでプレーする力はあるのだろうか?

ラス・パルマスで柴崎にポジションはあるか?

柴崎は(ボランチの)三列目で自由にボールを持ち、両足でパスを弾いて、するすると持ち上がるプレーを好む。技術力と活写力に優れるため、見えないパスコースを見つけられ、そこにボールを打ち込める。想像力も旺盛。しかし敵が密集した二列目(トップ下)では強いプレッシャーを受けるため、一つ下がった位置(もしくはサイド)をスタートポジションにすることが多い。

マドリーを相手に2得点したように、相手バックラインの前で時間とスペースを持てたら、「魔法の杖を振る」ことができるMFだ。

だが、スペインでは苦しむだろう。

まず、サイドMFとしては相手を切り崩すようなスピードがない。ボランチとしては、守備における脆さが目立ってしまう(小笠原満男のようなリーダーシップも与えられない)。やはりトップ下に適性がある選手なのだろうが、(敵が集まる)密集地でプレーし続けることを好まず、どうしてもボールを受けに下がったり、(横に)開いしてしまう。

噂に出たラス・パルマスはポゼッションを掲げ、攻撃色が強く、4-1-4-1と4-2-3-1を併用するチーム。サイドアタッカーにはボアテング、エル・ザハル、タナなど一人で仕掛けられる選手を配置している。抜きん出た身体能力とセンス、あるいはエッジの効いたドリブルなど打開力、決定力が求められる。トップ下もジョナタン・ビエラは高い技巧を持ち、かつ得点力を兼ね備える。交渉中のパリSG、ヘセ・ロドリゲスはうってつけの人材だろう。そしてボランチのロケ・メサは国内でも注目度の高い選手で、展開力とパーソナリティーに優れる。

スペインはプレーインテンシティがJリーグよりも格段に高くなるだけに、今の柴崎にポジションは見当たらない。

もっとも、ラス・パルマスが柴崎のマーケティング価値を認識し、自由契約になるだけにまずは契約を結び、「2部へのレンタルで様子を見る」という可能性はある。マドリーを相手に2得点したアピールポイントは高い。また、日本人が考える以上に、両足を巧みに扱い、閃きも見せる柴崎のプレーはスペイン人に好まれるだろう。しかし同時に、マイナスポイントもくっきりと映るはずだ。

なにより、ラス・パルマスがあるカナリア諸島には、柴崎と同じレベルの技術を持つ人材はごろごろと眠っている。大西洋に浮かぶ島でスペイン本土から南西に1000kmも離れており、その風土は南米や北アフリカが入り交じったところがある。サッカースタイルも自由で、規律に縛られない。ファン・カルロス・バレロン、ダビド・シルバなど技巧派を多く輩出してきた。

現実的に捉えた場合、今の柴崎には厳しい挑戦になる。

「エイバルの乾貴士の活躍によって、リーガでの日本人の評価が少し見直されつつある」

それはマーケットにおける事実だろう。他にもスペインのクラブが別のJリーグの選手に興味を持ち、人物照会をしている。今月31日の移籍マーケットが閉まるまでに、動く可能性はあるが・・・。

もし柴崎が本気でスペインでの活躍を望むなら――。昨夏に興味を示したという2部のラージョ・バジェカーノやヘタフェでプレーすることが、1部リーグでプレーするために一番の近道になるだろう。世界を驚かすポテンシャルは持っているだけに。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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