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アマゾン、Prime会員に月9ドルの診療サブスク ヘルスケア事業強化で新展開

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米アマゾン・ドット・コムはこのほど、米国で有料プログラム「Prime(プライム)」の会員向けにサブスクリプション(定額課金)型の診療サービスを始めた

2023年2月に買収を完了した米ワン・メディカル(One Medical)のサービスをPrime会員に提供するもので、通常サービスよりも割安にする。

買収したOne Medicalのサービス、Prime会員に

ワン・メディカルのサブスクに加入すると、24時間365日の遠隔診療を受けられる。これは全米規模で展開し、何回利用しても追加料金がかからない。

このほか、別料金を払えば、ワン・メディカルが運営する診療所で対面の診療を受けられる。また、専用アプリを通じて処方箋の管理や医療従事者とのメッセージのやり取り、診療後のフォローアップサービスなども受けられる。

利用料金は月9ドル(約1300円)、または年99ドル(約1万4000円)。ワン・メディカルの通常年会費は199ドルなので、年最大100ドルの節約になるとアマゾンは説明している。

Primeの米国での料金は、月14.99、または年139ドルだ。ワン・メディカルの診療サブスク料は、これに追加して支払うことになる。

Amazon Health Services(アマゾン・ヘルス・サービス)上級副社長であるニール・リンゼー氏は「必要なケアが受けやすくなると、人々はより健康に取り組み、より良い結果を実感できるようになる。だからこそ当社はOne Medicalの素晴らしい体験をPrime会員に提供する」と述べた。

一方、英フィナンシャル・タイムズは、アマゾンが複雑な米国の医療システムを変革するには、現在の顧客中心的な事業展開を越えた取り組みが必要になるだろうと報じている。

アマゾンは22年7月、米国でサブスク型の診療サービスを手がけるワン・メディカルを、総額約39億ドル(当時の為替レートで約5300億円)で買収すると発表。買収手続きは23年2月に完了した

ワン・メディカルは、初期診療(プライマリーケア)を対面やオンラインで受けられるサービスを提供している。全米25市場で約190の診療所を運営しており、76万7000人の個人会員と8500社の法人顧客を持つ。

アマゾンの医療事業 成功と失敗が混在

アマゾンは長年にわたり医療サービスへの参入を試みてきた。だが、そこには成功と失敗が混在すると指摘されている。

同社は18年に約8億ドルで米国のオンライン薬局企業PillPack(ピルパック)を買収した。この企業は患者が医師からもらった処方箋をネットで受け付け、複数の薬を服用時間帯ごとに分けて一包化し、全米に宅配していた。

20年11月には、同事業を基にオンライン薬局「Amazon Pharmacy(アマゾン・ファーマシー)」を立ち上げた。23年10月には、米国の一部で処方薬のドローン配達を始めたと明らかにした。

注文を受けてから、60分以内に顧客宅の庭に届けるというもので、追加料金はかからない。こちらはPrime会員以外も利用できる。

医療サービス「Amazon Care」は22年に終了

一方、19年9月には医療サービス部門Amazon Care(アマゾン・ケア)を立ち上げ、20年2月に同名のサービスを開始した。

これは、ワン・メディカルと同様に、専用アプリを通じ、テキストチャットとビデオ通話によるオンライン医療相談が可能で、必要に応じて訪問診療・看護も受けられる、というものだった。

当初はアマゾンの従業員と家族向けで、対象地域も同社本社のある米ワシントン州などの一部に限られていたが、その後規模を全米に広げ、他の企業にも提供を始めた。だが、このサービスは22年12月31日に終了した。アマゾンの幹部は「顧客のニーズを満たせなかった」と説明した。

オンライン診療のマーケットプレースを全米展開

アマゾンは23年8月1日、オンライン診療のマーケットプレース「Amazon Clinic(アマゾン・クリニック)」を全米規模に拡大したと発表した

これは、医療機関と患者をつなぐオンラインプラットフォームだ。患者は、アレルギーや結膜炎、尿路感染症といった約30の一般的な疾患について、テキストチャットやビデオ通話を通じて診察を受けられる。

22年11月のサービス開始当時は、米32州のみが対象だったが、23年8月に50州と首都ワシントンに拡大した。

筆者からの補足コメント:
本稿でも触れた処方薬のドローン配達は、まず、米南部テキサス州カレッジステーションで始めましたが、今後段階的に対象地域を広げる考えです。手順は、注文を受けると、薬剤師が薬をドローンに積み込む。ドローンは40〜120メートルの上空を飛行。障害物検知回避技術を備えており、センサーとカメラを使用して、人や動物、送電線などを回避します。

カメラで捉えた映像は、物体を識別するよう訓練されたニューラルネットワーク(NN)に送られます。ドローンが顧客宅の庭に到着すると、地上から突き出ている構造物や人や動物などの物体を検知し、降下経路を妨げていないかを確認。安全であることが確認できると、配達マーカーの上の約4メートルまでゆっくり降下して、荷物を投下します。配送が完了すると再び高度を上げ、配送センターに戻っていきます。

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年11月10日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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