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対話AIのコンテンツ利用は「ただ乗り」か 「対価支払われるべき」の議論

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:REX/アフロ)

米マイクロソフトが自社の検索エンジン「Bing(ビング)」に、米オープンAI(OpenAI)の人工知能(AI)技術を導入して以降、Bingの利用が急増している。

対話AI統合で人気上昇

AIを搭載したBingは調べたい内容に対して対話形式で回答する。ウェブアクセス解析サービスのシミラーウェブによると、マイクロソフトが2023年2月7日にウェブブラウザーでこの機能を利用できるようにして以降、Bingへのページアクセス数は15.8%増加した。一方、米グーグルの検索エンジンは1%近く減少した。

アイルランドの調査会社スタットカウンターによると、検索エンジンではグーグルが80%以上のシェアを握り、圧倒的に優位な立場にある。これに対しBingのシェアは9%弱にとどまる(図)。

出所:独Statista
出所:独Statista

しかし、1200億ドル(約16兆2800億円)を超えるといわれる検索市場でBingが1〜2%でもグーグルからシェアを移行させることができれば、マイクロソフトにとって有意義なことだとロイターは報じている

Bingはアプリのダウンロード件数も伸びているという。アプリ調査会社のdata.aiによると、Bingアプリのダウンロード件数は、対話AI統合後世界で8倍に増大した。グーグル検索アプリのダウンロード件数は同期間に2%減少した。

激化するAI開発競争

マイクロソフトが出資するオープンAIは20年に大規模言語モデル「GPT-3」を開発した。22年11月に、これを進化させたGPT-3.5を取り入れたAIチャットボット「ChatGPT(チャットGPT)を公開したところ、わずか2カ月で月間アクティブユーザー数が1億人に達した。

オープンAIは23年3月14日、GPT-3.5をさらに進化させた「GPT-4」を発表。そして、同社のChatGPTのほか、マイクロソフトのBingをはじめ、各種アプリやサービスがGPT-4を取り入れた。

グーグルは23年3月21日、対話AIサービス「Bard(バード)」を米国と英国で一般公開した。これらの対話AIサービスは、オンラインコンテンツから情報収集し、AIモデルのトレーニングを行っている。

利用者・広告収入奪われる懸念

こうした中、オンラインコンテンツのパブリッシャーは、対話AIサービスを巡るマイクロソフトやグーグルとの対決に備えていると米ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている

パブリッシャーは、対話AIサービスが、自社サイトへの流入と広告収入を奪うのではないかと懸念している。

マイクロソフトのBingチャットでは情報源へのリンクを表示しており、利用者はそれらをクリックして、オリジナルサイトに飛ぶことができる。グーグルのBardでは、画面下部に検索結果ページにリダイレクトするボタンを設けている。しかし、対話AIは問いに対して自然な文章で回答し、その内容も包括的であるため、リンクをクリックする動機がなくなると指摘されている。

「対価支払われるべき」

AIモデルのトレーニングに使用されるコンテンツに対しては、正当な対価が支払われるべきだとの議論がある。米国新聞協会の上級バイスプレジデント、ダニエル・コフィー氏は「私たちは価値のあるコンテンツを持っているが、それらは他者の収益を生み出すために利用されてしまっている。我々の投資や人間による仕事によって生み出された貴重なコンテンツであり、対価が支払われるべきだ」と指摘する。

米IT(情報技術)大手のネットサービスを巡っては、「メディア企業が費用を投じて作った報道記事を、対価を払わず検索結果やニュース配信サイトに表示している」として批判の声が上がっている。こうした批判に対し、グーグルやメタなどは一部対価を支払う動きを見せている。対話AIについても「ただ乗りは許さず」といった同様の議論が広がりつつあるとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

  • (本コラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2023年3月24日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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