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アマゾンの米サイトで消費期限切れの報告多数、急拡大戦略が裏目に出たか

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 米CNBCによると、ここ最近、米国の消費者は、米アマゾン・ドット・コムの米国サイトに問題があることに気づき始めた。消費期限切れの商品が多数売られているという。

品質基準の実効性に疑問の声

 それらは、アマゾンのマーケットプレイス事業を通じて、出店業者が販売する商品。商品は粉ミルクやコーヒーミルク、ペッパーソース、ビーフジャーキー、グラノーラ菓子などと多岐にわたるという。

 CNBCがアマゾンの米国サイトを確認したところ、期限が半年過ぎたスナック菓子や腐臭がするコーヒーミルクが送られてきたとする苦情があったという。

 またアマゾンのマーケットプレイスを専門とするデータ分析企業に依頼して「ベストセラー100」の食品を調べたところ、期限切れに関する苦情が5つ以上ある出店業者が、少なくとも4割あったという。

 これらの苦情にどの程度の信憑性があるのかは分からない。アマゾンの広報担当者はCNBCに対し、同社サイトで販売される業者の商品は、すべて基準を満たす必要があると述べている。

 アマゾンの出店業者向けサイトの説明によると、同社では消費し終えるまでの期間に加え、90日以上の保存可能期間を持つものを同社の物流センターに納めるよう義務付けているという。例えば1日1錠の服用を想定するサプリメントの場合、240錠入りボトルは、240日と90日の計330日の保存期間がなければならない。

 しかし、このルールが厳格に守られていることを示すものはなく、その実効性に疑問があると専門家は指摘しているという。またCNBCがメーカーや消費者、出店業者、コンサルタントなどに取材したところ、アマゾンの技術や物流システムの不備を指摘する人が多くいたという。

「安全基準不適合商品」の指摘も

 アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は今年4月、株主宛ての書簡で同社のeコマースサイトにおける物品販売総額のうち、出店業者(サードパーティー)の占める比率が58%になったことを明らかにした(図1)。この比率は20年前では3%、10年前では30%だった。

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 出店業者の年間販売額は1999年時点で1億ドルだったが、2018年は1600億ドルに拡大。同期間の年平均成長率は52%。これに対し、アマゾンが自ら商品を仕入れて販売する“ファーストパーティー”の年平均成長率は25%で、2018年の販売額は1170億ドルだった。

 こうして、急成長したマーケットプレイス事業に、同社の管理体制が追いつかず、さまざまな問題が生じていると指摘されている。

 例えば今年8月、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、アマゾンには数多くの安全基準不適合商品があると報じた。アマゾンは報道を受けて声明を出し、法令遵守の専門チームが、出店業者に提出させた製品安全書類を確認し、業者には商品の提出を義務付けていると説明した。

 しかし、この報道は波紋を呼んだ。その後、米上院議員3人がアマゾンに対し、販売を即刻中止するなどの迅速な対応を取るよう要請する書簡を連名で送った。

メーカーや他の出店業者にも被害

 CNBCによると、期限切れの商品はアマゾンのeコマース事業に関わる3者に損害をもたらすという。まずは、言うまでもなく消費者。次にメーカー。そして問題のない商品を販売している出店業者である。

 アマゾンのサイトには、1つの商品を1つのページ表示するというルールがある。そこでは、複数の業者が同じ商品を販売している。しかし消費者には、どの業者が期限切れ商品を販売しているかを知る方法がない。ページに掲載されるレビューに期限切れの報告があれば、その商品の購入を控えることになる。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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