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10億円超えの補助金を受けながらも倒産 震災時の中小企業支援のあり方

小出宗昭中小企業支援家
2011年3月12日筆者撮影

 巨額の助成金交付を受け「安全で素晴らしい商店街をつくったが、お客さんがまったく来ない」「やることが逆だった」――思わずそうもらしたのは、昨年私どもf-Bizに視察に来られた三陸地域のある自治体の方々だった。

 東日本大震災から9年。時間の経過とともに復興も進み、「がんばろう!東北」の声もかつてほどは聞かれなくなったいま、被災地には新たな問題が浮上していた。

●中小企業庁長官からの電話

 東日本大震災が発生した翌月のある夜遅く、突如携帯が鳴った。相手は当時の中小企業庁長官高原一郎氏だった。驚く間もなく「すぐに来てほしい」と言われ、私は翌朝一番の新幹線で東京へ向かった。

 案件は、福島第一原発から20 km 圏内にある中小企業の支援要請だった。

 ここには7~8000社の中小企業があったが、警戒区域に設定され、住民を含め原則として立ち入り禁止となることが決まっていた。つまり、中小企業としてはゼロの状況に追い込まれる。そこで白羽の矢が立ったのがf-Bizモデルだったのだ。

 とはいえ、企業支援機関なら他にも多数ある。しかし、高原氏は、「半端な支援では成果は出ない」「1から2にする支援はあっても、ゼロを1にする支援はない」とし、「あるとすればf-Bizモデルの支援しかない」そう訴えてきたのだった。

 しかし、状況も一層混迷を深めていくなか、このプロジェクトが実行されることはついぞなかった。だが、当時からそうした問題意識を国が持っていたことは紛れもない事実だ。

●「いまあるもの」で第一歩を踏み出す

 f-Bizモデルの支援手法とは、相談者の話に耳を傾け、その企業のセールスポイントとなる「強み」を発見し、それをお金をかけずに知恵とアイデアを絞って磨きをかけ伸ばしていくというものだ。このメソッドには普遍性があり、全国各地、中核都市でも離島でも多くの成果を上げている。

 しかし、震災時はこれが通用しない。「強み」をはじめ、多くのものを失っている状態にあるからだ。だが、あきらめるわけにはいかない。

 表現が適切ではないかもしれないが、震災直後など非常事態時とは、片肺飛行でも飛び続けなければならない状況といえる。どうにかしてつなぎ、体力をつけなければならない。そのためにはまず、「いまあるもの」に目を向け、それを組み合わせてつないでいくのだ。

 私自身は震災直後の5月上旬、NPO団体からの要請で仙台に出張相談で何度か訪れている。規模の大きな建設業者から個人商店まで顔ぶれは多様だった。

震災後の現地の様子を筆者が撮影
震災後の現地の様子を筆者が撮影

 ある旅館業の方は、「施設がめちゃくちゃになった」というので相談に来られた。現状を聞いてすべてを整理していったところ、2階の多くは壊れてしまったが、使用できる部分もあることがわかった。「営業可能ですよ」と言うと「こんな状態ではお客が来ない」と返ってきた。だが、復興支援でこの地にはたくさんの人が来ているはずだ。「現にボランティアの人たちは宿泊先困っていますよね。そういう人たちをまずは積極的に呼び込みましょう」そう提案すると、その方の表情が変わった。続けて「今後、会社関連でも復興支援の人たちが続々と入ってくるでしょうから、いち早くそれを打ち上げましょう」「そうすればフルに稼働できなくてもお金は入ってきますから」そう話すと、ハッと我に返ったような面持ちになった。これまでは観光客がターゲットだったこともあり、このことに気付かなかったのだろう。

 複数店舗を持つラーメン店においては、営業可能な店が1店あったことから、「メニューを絞って営業しましょう」と提案。この方もとてもすっきりした表情で帰って行かれた。

●助成金は諸刃の剣

 助成金を利用すればいいという意見もあるかもしれない。現実的に国や県は、被害の大きかった岩手、宮城、福島に対し、工場や設備再建のための費用として最大4分の3支援する「グループ化補助金」を4630億円近く投入している。

 だが、とくに深刻な状況にある水産業界においては、補助を受けた水産加工業者のうち、売り上げが震災前の水準以上に達したのは3分の1に満たないという。なかには、同補助金のほか、市の再生支援事業から11億円もの補助を受けながら、販路喪失と人手不足で倒産したところもある。

 じつは補助金助成金の利用は、ビジネス的に見ても甘くなってしまう傾向にある。地元メディアでも、こうした現状を受け、企業側には補助金等への依存体質が生まれたことは否めないとして自助努力を促す一方で、復興後までを考慮した国や自治体側における経済支援の再構築の必要性を報じている。

出張相談の様子を筆者カメラで撮影
出張相談の様子を筆者カメラで撮影

●企業支援にはソフト面での支援が必須

 東京商工リサーチの調べによれば、昨年2月時の東日本大震災関連倒産状況は、取引先・仕入先の被災による販路縮小などが影響した「間接型」が1701件(構成比89.3%)。事務所や工場などが直接損壊を受けた「直接型は202件(同10.6%)」とのこと。「間接型」が圧倒的に多い理由として、「震災関連で倒産した企業はもともと経営体力が脆弱で、震災が業績不振に追い打ちをかけたことが大きな要因と思われる」としている。

 やはり、延命措置ではなく蘇生措置となるべく、経営者や従業員のモチベーションを引き起こさせるような支援が必要といえる。

 東北は震災前から経済面での環境がどちらかというと厳しい地域で、もともと困難なところからのスタートだった。要は、新たに魅力を作ってからハード面に着手する、あるいは、同時並行でやるべきだったといえるのだ。

 従来、補助金を利用して地域の特産品を作るモデルはあったが、それを魅力ある商品、つまり、売れる商品にするための支援がそもそもなかった。じつは魅力を上げるというのは高度なコンサルティングといえ、それゆえ支援がなされていなかったのである。

 今年、三陸地域の自治体において、震災地では初となるf-Bizモデルが展開される。注目も一層高まるだろう。私どもにとっても新たなチャレンジとなる。だが、目指すものは変わらない。地元の方々の期待に応えるべく、相談者と同じ目線に立ち伴走を続けるなかで多くの成果を上げ続けていくことだ。

参考・出典:

河北新報ONLINENEWS

https://www.kahoku.co.jp/editorial/20191231_01.html

東京商工リサーチ

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190308_03.html

中小企業支援家

59年生まれ。法政大卒後、静岡銀行に入行。M&A担当等を経て、01年静岡市の創業支援施設へ出向。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005経済産業大臣表彰を受賞した。07年浜松市に開設された中小企業支援施設への出向中に故郷の富士市から新設する中小企業支援施設のセンター長着任を依頼され、08年銀行を退職し会社を立ち上げ施設の運営を受託し12年に渡り運営した。知恵を使って売上を生む小出流の中小企業支援をわが町にもと取り組む自治体が全国20カ所以上に拡がった他、NHK「BS1スペシャル」や「クローズアップ現代等でその活動が特集された。

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