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銀行存亡へのカウントダウン――危機感が希薄な地域金融機関は淘汰もやむなし

小出宗昭中小企業支援家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 スマホで手軽に利用でき、手数料も安く、しかもスピーディであることから、いまや金融とIT(情報技術)を 融合させた「フィンテック」は従来の銀行業務を確実に侵蝕している。

 新たなビジネスチャンスとして新興企業がしのぎを削るなか、追い打ちをかけるように、日銀が16年1月にマイナス金利政策を導入。

 かつてない事態に、メガバンクでは人員削減策を打ち出したほか、事業構造の根幹からの転換策として数々の取り組みに着手。たとえば、AI(人工知能)によって企業の多様なデータを分析し、スピーディに融資限度額や金利の妥当な額を自動で割り出せることから、これまで営業対象としてこなかった中小企業へのアプローチも可能とみている。

 地域金融機関にとっては死活問題だ。にもかかわらず、当人達の危機感はあきらかに薄いのである。

●限界を迎えた銀行本来のビジネスモデル

 従来、銀行の利益は、預金で集めたお金を企業に融資し、その際の金利差(利ザヤ)で得られていたのだが、マイナス金利導入により、このビジネスモデルが通用しなくなっている。金融庁の試算では、24年度、6割を超える地銀で貸し出し等の顧客向けサービスが赤字に転じるという。

 こうした危機的背景からか、昨年末にかけて私は、立て続けに金融庁に招かれ、幹部の方々を対象とした勉強会・意見交換会で講話を行うこととなった。またその直後には、日銀や財務局の幹部の方々とも直接お話をする機会があったのだが、驚いたのは、「地域金融機関の危機感が非常に薄い」と異口同音していたことだ。自分の感じていた危機感はすでに待ったなしの状況であることを確信。このままでは金融庁の試算どおり7年後の未来はないと言わざるを得ない。

●地域金融機関の衝撃の実態

 先日、ある地方金融機関のトップと、仮想通貨の銀行への影響について話す機会があったのだが、その方は最後、笑みを浮かべこうおっしゃった。「小出さん、大丈夫ですよ。日本人は現金主義ですから」と。もはやかける言葉も見つからなかった。

 また、ある地銀の中堅行員達に現在の危機感の程を聞いてみたところ、「行内での危機感の共有はない」「今の業態はなくなるだろうが、まだ先のことだと思う」という声に交じり、「大変だが“うちだけじゃない”という認識を多くの人が持っている」という回答があった。泥船に乗っていてもみんなで沈めば怖くないという諦めなのか、あるいは、誰かが何とかしてくれると思っているのか、真意はどうあれ、これが現状なのだ。

 たしかに国の救済措置が過去にはあったが、今後はそれを望めないと言わざるを得ない。金融庁が16年10月、「金融行政方針」の中で、「各金融機関が、問題意識を持って自らのビジネスモデルを検証し、それぞれが自主的な創意工夫の下、持続可能なビジネスモデルの構築に向けた具体的かつ有効な取り組みを行うことが求められている」と示した。これは、どうすれば収益性を保てるか、戦略・戦術を本気になって考えよというメッセージであると同時に、一層厳しさを増す金融環境の下、それができない企業は淘汰されてもやむなしという金融庁の危機感の表れとも理解できる。有識者の中には、金融庁の動向として、銀行再編ではなく淘汰に移ったと示唆する人もいるほどだ。

●求められる独自の経営戦略と新たな取り組み

 活路を見出すために、再編・合併の動きも見られるが、うまくいっていないもの同士が組んだところで、成果が上がるとは考えにくい。

 今必要なのは「新たな収益の柱」である。融資の利ザヤや、国債や株式などでの運用益での収益増が見込めない金融環境下、投資信託など金融商品の販売に力を入れる金融機関が増えているが、これは顧客への負担転嫁ともいえ、将来性に乏しい。そもそも、地域金融機関の使命や原動力とは、地域への貢献にある。地域に信頼され、求められるサービスを提供し続けることが生き残りの策であるべきだろう。

 では、具体的に何をビジネスの主軸に据えるか。明確な答えを私は持っていないが、とにかく本気で危機感を持ち、新たなビジネスモデルを模索することにつきる。そしてその一例として、静岡銀行の取り組みをあげたい。同行はすでに複数の異業種企業との提携網を広げ、新サービスもスタートさせている。また、AI開発を手掛けるベンチャーなど数社を集め、連携に向けたプレゼンテーションイベントを都内で開催するなど、先進的技術への取り組みも加速させている。

 元静岡銀行員がひいき目で述べているのではなく、こうした動きは金融庁サイドも把握しており、高く評価すると同時に、大きな期待を寄せている。

●危機感こそが未来を切り拓く

 今年から私は、地域金融機関でのセミナーの際、まず何より、自分達の置かれている危機的現状を自覚してもらうことから説くようにしている。それだけ逼迫した状況だということはもちろん、危機感を持つことはとても重要で、これまで多くの企業支援に携わってきて言えることだが、奇跡のようなV字回復やイノベーションとは、これ以上のどん底はないという状況下、とてつもない危機感があるからこそ成し得られるものだからだ。

 とはいえ、今の自分に何ができるのか? そう思った金融マンもいるかもしれない。まずは自分達のポテンシャルにもっと自覚とプライドを持っていただきたい。本気になれば、どこよりも地域の役に立てるのが地域金融機関なのだ。その潜在能力を発揮すべく、自分に本当に必要なスキルは何かを考え、そして、時代の要請に応えるべく自己研鑽を積むこと。行内の資格試験より何よりそれが未来を切り拓くことになる。

 一人ひとりがこうして常に考え、変革を続けられる組織になれるかどうか、地域金融機関の生き残りはここにかかっていると言える。

中小企業支援家

59年生まれ。法政大卒後、静岡銀行に入行。M&A担当等を経て、01年静岡市の創業支援施設へ出向。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005経済産業大臣表彰を受賞した。07年浜松市に開設された中小企業支援施設への出向中に故郷の富士市から新設する中小企業支援施設のセンター長着任を依頼され、08年銀行を退職し会社を立ち上げ施設の運営を受託し12年に渡り運営した。知恵を使って売上を生む小出流の中小企業支援をわが町にもと取り組む自治体が全国20カ所以上に拡がった他、NHK「BS1スペシャル」や「クローズアップ現代等でその活動が特集された。

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