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北朝鮮「ご子息、令嬢のご乱行」で吊し上げの刑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

ニューヨークに本部を置く国際人権団体「ヒューマン·ライツ·ウォッチ」は7日、新型コロナウイルスの世界的流行に際し、より悪化した北朝鮮の人権状況を調査分析した報告書「銃弾より強い恐怖;北朝鮮の閉鎖(A Sense of Terror Stronger than a Bullet:The Closing of North Korea)2018-2023」を公開した。

北朝鮮を巡っては、国連安全保障理事会の制裁決議が2017年に強化されたのに続き、同国がコロナ流入防止のためとして2020年1月に自ら国境を封鎖したことにより、国境間の人的移動、公式および非公式貿易と人道支援がほぼすべて中断。国内の経済難がいっそう深刻化した。

さらにこの期間、北朝鮮は防疫対策を理由に人々に対する統制を強化。2020年12月には韓流など外部情報を取り締まる「反動思想文化排撃法」を制定して違反者に厳罰を下した経緯についても報告書は触れている。

実際、この期間の国民統制は類例のない厳しさだった。たとえば北東部の羅先(ラソン)では2022年10月、地元の有力なトンジュ(新興富裕層)の子女らのグループがK-POPをかけて、歌い踊り大騒ぎを繰り返していたところ、反社会主義・非社会主義連合指揮部(82連合指揮部)に踏み込まれ逮捕された。

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

さらに、家宅捜索で覚せい剤まで発見され、その場にいた5人が見せしめのため公開裁判で吊し上げられた。

貿易都市である羅先の有力トンジュともなれば財力は相当なもので、平時であれば事件化する前にワイロでもみ消せたかもしれない。しかし違反者を死刑にするほど厳しい防疫体制下では、命がつながっただけマシと言えた。

実際、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2022年12月3日、北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で韓流ドラマや映画などを視聴し、拡散させたとして摘発された高校生ら3人が、10月に公開処刑されていたと報じた。

処刑された3人のうち、2人は韓流コンテンツやアダルトビデオを流布したとして摘発された。もうひとりは継母を殺害したとして逮捕されていたという。

いま振り返ってみると、金正恩体制は意図的に、防疫体制と韓流取り締まりをぶつけたのかもしれない。そうすることで、韓流などの取締りキャンペーンがワイロで骨抜きにされるのを防ぎ、高い効果を上げることが出来たと思われるからだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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