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編集部にある北朝鮮男性から届いた「命がけのSOS」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 お笑いタレント「ダウンタウン」の松本人志氏の性加害疑惑報道が波紋を広げる中、ほかにも、芸能人らによるハラスメント告発が相次いでいる。

 それと内容は全く異なるが、韓国デイリーNK編集部にも告発が届いた。告発者はロシア・イルクーツクにいる北朝鮮人労働者のAさんで、その対象は彼らの管理を行う建設会社の保衛員(秘密警察)のチェ・ソンチョル氏だ。拷問や公開処刑などの手段を総動員して金正恩体制の恐怖政治を支える保衛員だが、このチェ氏は一見、温和な印象があるという。ただ、裏ではやはり、非道の限りを尽くしていた。

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

 ことは2020年に遡る。新型コロナウイルスの世界的大流行による不況で、チェ氏に対して帰国命令が下されたが、北朝鮮は同年1月に国境を封鎖したため、帰国できずにロシアに滞在し続けていた。

 そのため、不正行為を行ったとしても強制帰国させられることはなく、本国が検閲(監査)も行えない。それを利用して、チェ氏は労働者から搾取の限りを尽くしていたのだ。

 ロシアに滞在する北朝鮮人労働者は、所属の企業から課された外貨稼ぎの課題(ノルマ)をこなしつつ、「闇バイト」で住宅の内装工事などを行っていたが、それにあたってロシアキャリアの携帯電話の所有は欠かせない。

 2020年末に制定された「反動思想文化排撃法」の19条は、他国の携帯電話の使用を禁じている。チェ氏は「祖国(北朝鮮)に報告する」「自分に任せれば許される」などと脅迫と懐柔を繰り返し、多額のワイロを要求していたのだ。

 また、同じ19条が禁じている、韓流コンテンツの携帯電話での視聴禁止も、脅しのネタとなった。「南朝鮮(韓国)のニュースやドラマを見た」と濡れ衣を着せてワイロを払わせる手法だ。

 その裏で本人は、自宅の部屋に65インチの大型テレビとWi-Fiのルーターを設置して、韓流コンテンツを楽しんでいたのだ。音声が漏れてバレないようにヘッドホンを使っていたという。

 そんな彼には、韓国の流行語をもじった「サンガンド」というあだ名が付けられていた。とても上品で男らしい強盗と言った意味合いだ。

 脱北者のチョン・サンチョルさん(仮名)は、ロシア駐在の保衛員のやり口についてこう語った。

「ロシア国内では保衛員を3番と呼んでいるが(支配人は1番、朝鮮労働党書紀は2番)、1番と2番をものともしない強大な権限を振りかざしている。基本任務は非社会主義(社会主義にそぐわない風紀の乱れ、違法行為)の取り締まりだが、一部の保衛員は労働者のなけなしの収入を狙う破廉恥ぶりだ」

 保衛員の非道ぶりを訴えようにも、権限が強大なため、支配人と言えども何も言えない。また、保衛員を取り締まる人員が別に存在するが、「労働者の脱北などの異常事態の監視を適切に行なっているか」にしか関心がなく、保衛員が労働者を搾取したり、韓ドラを見たりしても、何も言わないとだという。

 Aさんは、チェ氏の行為について北朝鮮当局への信訴(告発)を考えたものの、聞き入れられることはないだろうと諦め、韓国デイリーNK編集部に助けを求めた。Aさんは「この世の中、地球上のすべての人に知らしめて、(チェ氏に)歴史の裁きを受けさせたい、酷い扱いを受ける庶民の力を見せつけたかった」として、詳細を語った。

 加害者の実名を挙げての告白であることから、情報が巡り巡って北朝鮮当局の目にすることになり、チェ氏の処罰に至る可能性も考えられる。一方で、詳しい調査が行われれば、Aさんの身にも危険が迫る。彼にとっては命がけの告発でもあるのだ。

 北朝鮮からの派遣労働者の新規雇用は、国連安全保障理事会対北朝鮮制裁2375号によりり、加盟国に対して禁じられている。また、以前からいた労働者も2019年末までに全員を帰国させることになっていたにもかかわらず、ロシアには北朝鮮人労働者が残り、最近になっては新たな受け入れも行われている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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