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金正恩の「処刑部隊」内部で不満…食糧配給を減らされ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮ではかつて、安全員(警察官)と保衛員(秘密警察)への配給だけは、たとえ何があろうとも絶対に途切れることがなかった。独裁体制を維持するには、彼らの協力が絶対に必要なためだ。

 保衛員は大衆の中にスパイを潜り込ませ、反体制の動きがないか監視している。不満分子を拷問し、公開処刑も行う。安全員は犯罪捜査も行うが、保衛員と同様に反体制に対する監視の方が重要任務になっている。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 ところが、2020年1月からのコロナ鎖国の影響で、彼らへの配給が滞るようになった。最近、1年分の食糧配給が行われたものの、量は大幅に減っており、大きな不満が渦巻いているという。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)で暮らす安全員は、年明けに1年分の食糧配給を受け取った。コメ50キロとトウモロコシ200キロで、後者は皮とひげを取って粒だけにすると140キロだった。

 北朝鮮ではトウモロコシを基準に、穀物の配給量を計算する。コメはトウモロコシの2倍の価値がされているので、50キロならトウモロコシ100キロ分とカウントされる。つまり、妻と息子と3人暮らしのこの安全員の家庭は、1年分として240キロの穀物を受け取ったことになる。

 従来、安全員や保衛員は1人当たり年間200キロの穀物を受け取ることになっていた。家族分まで合わせると、3人家族なら500キロが規定量だが、今回はその半分にも満たなかった計算になる。

 北朝鮮の農業は一昨年、自然災害の影響などで大凶作となり、コロナ鎖国のせいで輸入量も足りなかった。それでもこの安全員は、トウモロコシ換算で300キロを昨年分として受け取ったという。

 北朝鮮政府は昨年の農業について、「豊作だった」と宣伝している。これを信じた安全員と家族は、より多くの配給を期待していたのに、むしろ量が減らされ、大いに落胆しているという。

 当局は昨年の収穫期に「前例のない良い作況」だと宣伝し、年末の朝鮮労働党中央委員会総会でも、「穀物生産目標を超過達成したのは、2023年度経済事業で最も貴重な成果」と自賛していた。

 同市内のある保衛員の場合、3人家族でコメ30キロ、皮付きのトウモロコシ200キロと、前出の安全員より配給量が少なかった。これはその地域における、保衛員と安全員の力関係の差からくるものだという。

 いずれにせよ、安全員や保衛員は今年、昨年より多くの配給量を期待していたのだが、予想より少ない量に大きく失望しているという。

「配給量が少なく、困惑している人が多い」

「農業が順調だったというが、市場の米価もあまり安くなく、すでにあちこちでコメが不足しているという話ばかりが聞こえてくる」(情報筋)

 北朝鮮のコメ価格は昨年9月に1キロ当たり6600北朝鮮ウォン(約102円)まで高騰したが、収穫終了直後の12月初めに4700北朝鮮ウォン(約80円)まで下落した。しかし、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)市場では再び5000北朝鮮ウォン(約85円)を超えている。

 昨年は「豊作だった」とする北朝鮮当局の発表は、果たしてどこまで本当なのだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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