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金正恩「身内を処刑」の震撼情報…独裁確立の決め手に

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 本欄で既報のとおり、北朝鮮国内で、金正恩総書記の娘であるジュエさんについて「朝鮮の新星」「女将軍」という称号が使われ始めたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

 偵察衛星の打ち上げ成功を巡る講演会において、「宇宙強国時代の未来は『朝鮮の新星』女将軍によって今後さらに輝くだろう」と強調されたとのことで、事実ならジュエさんの偶像化が始まった可能性がある。

 まだ10代前半の幼い少女が本当に、金正恩氏の後継者候補になったのだろうか。もしかしたら金正恩氏の頭の中には、そうした考えがあるのかもしれない。

 そうだとしても、彼女が父親の後継者に「なれるかどうか」は別の話だ。金正恩氏が権力を握る過程では、おびただしい量の血が流れた。それは彼の祖父・金日成主席や、父・金正日総書記の権力掌握においても同様だった。彼ら3代の間では権力のため暴力と恐怖を駆使する「才能」のようなものが受け継がれていたとも思えるが、娘が同じものを備えているかは未知数だ。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 特に金正恩氏は、自らの独裁を確立するために身内さえ処刑している。叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長と、異母兄の金正男氏である。

 一時は金正恩氏の後見役だった張成沢氏は、国内外の利権と重要人脈を一手に掌握していた実力者だった。いま振り返ってみると、金正恩氏の「政敵」となり得た唯一の存在だったかもしれない。

 仮に、張成沢氏が金正恩氏に恭順の意を示していたとしても、「潜在的な脅威」としていずれは排除されたのかもしれない。

 一方の金正男氏には、張成沢氏のような力はなかった。血筋の正統性という点において、金正恩氏の競合者となり得る要素はあったとしても、体制を脅かすほどの実力者になる見込みは乏しかった。

 それでも金正恩氏は、彼の生存を許さなかった。監視カメラに決定的瞬間が記録されたクアラルンプール国際空港での暗殺劇は世界に衝撃を与えた。北朝鮮の暗殺者たちにはいくらでも、もっと目立たない場所で襲撃するチャンスがあったはずだ。わざわざカメラだらけの空港で、やたらと手の込んだ方法で実行した裏には、世界に向けた「公開処刑」であると同時に、「自分の目で確認したい」という意向があったのだろう。

 金正日氏もまた、処刑こそしていないが、叔父と異母弟を権力闘争で排除している。

 金正恩氏は自分の娘に、そうした力があると思っているのだろうか。あるいは、自ら手ほどきするつもりなのだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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