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「子供のおねだり」が"命とり"にもなる北朝鮮の親たち

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

MP4プレイヤーとは、見かけはスマートフォンそっくりだが通話機能はなく、Wi-fiやBluetoothでダウンロードした動画や音楽のファイルを再生できる、小型のタブレットPCのようなもので、比較的安価に購入できる。これが、スマートフォンを買えない北朝鮮の若者の間で大流行している。

2018年ごろから密輸されたものが流通するようになり、コロナ鎖国で一時途絶えたものの、国境が開かれたことで再び密輸されるようになった。これが、思春期の子を持つ親たちの頭痛の種になっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

慈江道(チャガンド)の情報筋は、今年の夏から市場でMP4プレイヤーが売り出されるようになったと伝えた。いずれも密輸業者が持ち込んだもので、初級中学校(中学校)や高級中学校(高校)の生徒の間で大流行している。

北朝鮮製のタブレットPCは500元(約1万220円)で売られているが、中国製のMP4プレイヤーは、容量が16ギガ以下でディスプレイがガラケーほどの小型のものは180元(約3680円)から230元(約4700円)、32ギガ以上でスマートフォンと同じサイズのものは230元から300元(約6130円)だ。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、かつてはそれなりに売れていた北朝鮮製のタブレットPCは、中国製のMP4プレイヤーが売られるようになってからはさっぱり売れなくなったという。

国境が開かれたことで、経済的状況がコロナ禍よりは幾分マシになったとは言え、依然として人々の懐事情は厳しい。中高生の子どもを持つ親たちは、MP4プレイヤーをねだられ、困り果てている。

「恵山(ヘサン)の市場でコメ1キロは6.5元だ。子どもたちが欲しがるMP4プレイヤーは大体250元(約5110円)以上して、コメ38キロ分に相当する。MP4プレイヤー1台が一家の1カ月の食費とほぼ同じだ」(情報筋)

中高生がMP4プレイヤーを欲しがる理由はただひとつ。自由に音楽や動画を楽しみたいからだ。北朝鮮製のデジタルデバイスは中国製より高価な上に、国の承認を得ていないファイルの再生ができないようになっている。

韓国ドラマ、映画、K-POPのPVなどに対する取り締まりが非常に厳しいが、小説や韓国以外のゲームに関しては、摘発されたとしても軽い処罰で済まされる。だから、親たちも特に何も言わないどころか、外国の小説を読めば視野が広がり知能が発達すると、内心喜んでいるという。

一方で、韓流コンテンツの所持については、親たちも非常に心配している。摘発されたとしても、17歳以下なら軽い処罰で済まされるが、親は監督不行き届きで厳罰を受ける。下手をして流布罪に問われでもしたら、命にかかわる重大問題になる。

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

だが、親たちは、自分の子どもだけがMP4プレイヤーを持っていければ、学校で仲間外れにされるのではないかとも心配するため、買い与えても心配、買い与えなくても心配になるという。

当局は、輸入を完全にコントロールできる制度の確立を目指すと共に、韓流コンテンツの流通にも厳しい取り締まりを行ってきたが、結局国境が開かれれば元の木阿弥になってしまった。目新しくかっこいいものに接したいという若者の気持ちを取り締まりや思想教育で押さえつけるのは土台無理な話だったのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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