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「片っ端から強制送還」噂に震える在中国の脱北者

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

 中国政府の脱北者に対する公式見解は、「経済目的の違法入国者」というものだ。中国は1982年に難民条約に加盟しており、脱北者の送還は、本国に帰れば迫害の危機にさらされる人々を帰国させてはならないという「ノンルフールマン原則」に反している。だが、そもそも難民として認めていないため、これが適用されないというのが中国の考え方だ。

 ただし、実際の運用においてはかなり曖昧だ。逮捕して強制送還するケースもあれば、中国人男性と結婚している場合には、滞在を黙認するケースもある。明確な法的根拠に基づいていない措置も多く、それがむしろ、脱北者やその家族の不安につながる。

 在中国のデイリーNK情報筋によると、現在、中国の脱北者コミュニティでは「近く、中国に住んでいる脱北者や、収容所に入れられた脱北者がすべて強制送還される」との噂が流れている。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

 中国公安当局に逮捕された脱北者は、収容所に入れられた上で、まとめて北朝鮮に強制送還される。ところが、北朝鮮は2020年1月以降、ゼロコロナ政策として国境を封鎖し、強制送還者の受け入れすら拒んできた。

 その受け入れを近々再開し、まずは収容所にいる人、次に普通に暮らしている人を全員捕まえて強制送還するのだという。

 中国語に通じた脱北者の中には、今住んでいるところを離れて、しばらくのあいだ別の場所で身を隠す人も現れている。いずれはバレてしまうだろうが、「他に選択肢はない」と思い詰めているようだ。

 公安当局はまた、脱北女性と結婚して暮らす中国人男性から罰金を徴収しており、これがさらに恐怖を煽っている。

「噂は噂に過ぎない、と心を落ち着けようにも、不安で夜も眠れない。強制送還という字面を見るだけで全身が震え、髪の毛が逆立つほど恐ろしい」(中国在住の脱北者)

「韓国に行こうとして捕まり、刑務所に入れられたことがあるので、普段から玄関をノックせずに入ってくる人がいれば素早く身を隠す癖がついた。そんな風に暮らしてきたのに、抜き打ちでやって来て強制送還するという身の毛もよだつ噂が流れており、心を落ち着けようがなく、どうすれば良いかわからない」(別の脱北者)

 常に不安の中で暮らしている脱北者だけあって、根拠の明確でない噂でも、ファクトチェックする術もなく、ただ不安に震えるしかないのだ。

「奇跡が起きて、南朝鮮(韓国)から飛行機が飛んできて、ここにいる脱北者をみんな乗せて行ってくれたいいのに」(別の脱北者)

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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