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戦争どころではない…北朝鮮軍将校たちを苦しめる栄養失調

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 北朝鮮において、誰もが羨む職業と言えば、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍官(将校)だ。社会的に地位が高く、待遇もよく、運が良ければ定年後には首都・平壌への居住権も与えられる。

 厳格な身分制度の存在する北朝鮮で、誰もがなれるものではないとは言え、成分(身分)に問題のなく成績優秀な庶民にとって、「上級国民」への近道のひとつになっていると言えよう。

 しかし、それも今は昔。軍官の待遇は日を追うごとに悪化している。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 第2の都市、咸興(ハムン)に本部を置く第7軍団所属の一部の軍官やその家族は、著しい食糧難に苦しめられている。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 かつては食糧、生活必需品など充分な配給が行われていたが、政府は2020年1月に、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために国境を封鎖。人と物の出入りが一切ストップしたことにより、深刻な食糧、物資不足に陥ったあおりを受け、今年に入ってから配給が滞りがちになっている。

 咸興市内や北倉(プクチャン)郡に住む軍官の家族への食糧配給は2〜3カ月遅配し、軍官本人の分も量が減らされている。わずかな食べ物を分け合って耐えしのいでいるが、全く量が足りずに、飢えに苦しめられている。

 軍人の商行為は禁じられているものの、現金が必要な場合は、民間からの軽作業請負などに兵士を動員するなどして、現金収入を得ている。ところが、昨今の経済難のあおりで、これも難しくなっている。結局、妻が親戚に無心して現金や食べ物を確保する有様だ。

 ある軍官の妻は今月中旬、咸興市内に住む実の姉を訪ねてきたのだが、その顔は栄養失調でむくんでいて、誰かわからないほどだったという。3月に20日分の配給を受けたのを最後に配給が途絶えてしまい、家財道具を売り払って食べ物を確保してきたが、それもなくなり、姉のところに無心にやって来たというわけだ。

 妹は姉にこう訴えたという。

「配給が途絶えて自分で食べ物を手に入れようにも、軍官の家族は商売が禁止されているのに、どうやって手に入れるのか。軍官の家族は商売していないかと取り締まられるから、どうやって生きていけばいいのか、お先真っ暗だ」

 情報筋によると、コロナ前、軍官は食糧事情がいかに緊迫していても、配給がもらえたため、民間人の親戚の方が無心に行っていたが、今ではすっかり立場が逆転。苦しむ軍官の姿を目にした市民の間では、食糧難への不安感が高まっている。

 実際のところ、軍官の待遇悪化は、コロナ前の2018年ごろから始まっていたようだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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