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北朝鮮「140万人の若者が軍入隊」の悲惨な舞台裏

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

 米軍と韓国軍は、合同軍事演習「フリーダムシールド」を13日から23日まで行った。これと関連して、北朝鮮の国営メディアは、140万人もの若者が、軍への入隊や復帰を「嘆願」したと報じている。

 これは、北朝鮮が危機感を感じたときに行う一種の示威行為のようなものだが、現場の実情は非常にお粗末なものだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

 平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、14日に安州(アンジュ)にある南興(ナムン)青年化学連合企業所の従業員の集会で、「米帝と南朝鮮(韓国)の傀儡どもの反共和国(反北朝鮮)圧殺策動に勇敢に立ち上がって除隊軍人青年は、軍への復帰を嘆願せよ」との指示が伝えられた。対象となったのは35歳未満で、期間は1年から3年だ。

 この企業所には約3万人の労働者がいて、他と比べて除隊軍人が多いのが特徴だ。肥料生産能力を高めるために毎年、除隊軍人が送り込まれてきたからだ。全国的にこのような除隊軍人の多い特級企業所、1級企業所が対象になっている。

 毎度のごとく、「嘆願」という名の強制が行われているが、除隊軍人は毎日飢えに苦しんだのを思い出し、またあの苦労をさせられるのかと嘆願を避けようとしている。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 別の情報筋も、「対象となった青年たちの反応は冷淡」だと伝えている。

 徳川(トクチョン)自動車連合企業所では17日、軍復帰嘆願行事が行われた。その場では、青年同盟の幹部10人と、35歳未満の除隊軍人の労働者50人を、手本として軍に嘆願させることが伝えられた。しかしリアクションが薄かったため、強制的な選抜に切り替え、嘆願したように装ったという。

 担当者は「わが国(北朝鮮)を飲み込もうと米帝と南朝鮮傀儡が核戦争挑発演習を行っている、すべての青年は、軍復帰嘆願者の模範に習い、革命の軍服を着よう」と呼びかけたものの、やはり耐え難い飢餓とつらい建設現場での労働のことを思い出しているとのことだ。

 この手の嘆願事業は度々行われているが、豊かな都市部を離れ、つらいところに送り込まれることがわかっているため、ともかく嫌がられる。半強制的に推進してもうまく行っていないようで、北朝鮮は最近、一度短縮した兵役を、元の10年に戻す決定を下した。これも、労働力の確保のためと思われる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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