2020年3月に行われた平壌総合病院の着工式。参加した金正恩総書記は演説で、「党の指導に従って建設の大繁栄期を先頭に立って切り開いてきた日々に発揮した不屈の精神力」をもって、その年の10月10日の朝鮮労働党創建記念日までに完成させるよう求めた。

　大規模な総合病院を建設するのに、工期がわずか7ヶ月というのは、そもそものスケジュール設定が間違っている「無理ゲー」と言わざるを得ないが、金正恩氏の言いつけならば「白いものでも黒という」のが北朝鮮である。

　労働者にろくに食事や睡眠時間を与えない、超絶ブラックなやり方で工事を進め、死亡事故が多発。19人が墜落死する結果を招いた。

（参考記事：「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故）

　そして着工式から2年半。病院は未だに完成に至っていない。

　国営の朝鮮中央通信は、一昨年9月に「平壌総合病院建設の外部仕上げ工事が進められる」という記事を出したのを最後に、工事の進捗状況について報じていない。今年2月の「第２回建設部門活動家大講習が開講」というタイトルの記事で、「平壌総合病院が世界的水準で建設されている」と触れていることから、未だ完成に至っていないことがわかる。

　最近では工事遅延の責任を問われ、高位幹部が刑務所行きになったと平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

　平壌総合病院の建設現場の施工責任者だった、英雄第1旅団の参謀長が、郊外の勝湖里（スンホリ）にある労働鍛錬隊（軽犯罪者を収容する刑務所）送りになった。ここは、最近まで管理所（政治犯収容所）として運営されていたが、6月中旬からは、過ちを犯した高位幹部や秘密プロジェクトの従事者を収監する施設となっている。

　参謀長以外にも、複数の関係者が摘発された。建設の遅れだけが原因ではない。

「鋼鉄、土木、セメント、鉄板、ガラス、タイルなど高級輸入資材と、国産の資材不足で9人の軍官（将校）が辞めさせられ、国家財産略取罪で3年から11年の懲役刑が宣告された」（情報筋）

　国家財産略取、言い換えると資材の横流しをして私腹を肥やしていたということだ。このような横流しや横領の類は、北朝鮮で広範に見られる現象だが、金正恩氏自らが鍬入れをするほどの現場ですら、この有様なのだ。

　工事の遅れは深刻で、金正恩氏は2020年7月、現場を視察して幹部を厳しく叱責し、人員の入れ替えを命じている。また、同年11月には、建設責任者の一人である近衛英雄旅団の団長が、中将から大佐へと降格させられる処分を受けている。

　さらに昨年4月には、設備の輸入をめぐり問題が発覚、金正恩氏の怒りを買って、責任者が処刑される事態となっている。右往左往する平壌総合病院の建設プロジェクト。果たして完成する日はやってくるのだろうか。