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「手足が蚊のように細い」金正恩の護衛部隊から死者続出

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 梅雨前線の北上に伴い、朝鮮半島では大雨が降り続いている。防災インフラの脆弱な北朝鮮では、各地で被害が続出している。

 そんな中、被害復旧を担当する軍部隊の幹部が解任された。デイリーNKの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部の情報筋が伝えた。

 解任されたのは、金正恩総書記の警備にあたる護衛総局傘下の115建設旅団の旅団長と政治委員だ。護衛総局は、本部党政治委員会で、大雨と洪水の被害復旧の任務をまともに遂行できなかったとして、2人の解任を決めた。この115建設旅団とは、金正恩氏が使う1号道路、牧場、工場、農場、建物の補修を専門的に行う護衛総局所属の旅団だ。

 護衛総局は先日、大雨による洪水が予想されるとして、本部庁舎と各地域の特閣(金氏一家が利用する別荘)をつなぐ道路の緊急補修命令を115旅団に下した。ところが、旅団は人員の派遣が充分にできなかった。その背景を、情報筋は次のように説明した。

「護衛総局傘下の特殊区域の被害防止は、同局所属の建設専門部隊がやるのが原則となっているため、別働隊を派遣せよとの命令を下したのだが、部隊では栄養失調や結核を患い、保養のために一時帰宅している者が多く、すぐに人員を派遣できなかった」

 そんな中、平安北道(ピョンアンブクト)の一部の特閣につながる道路の街路樹が倒れ、浸水被害が発生した。北朝鮮では、金氏一家に関連することは何よりも優先されるため、たとえどんな理由があろうとも、一切聞き入れてもらえない。保衛局は、115旅団がすでに「戦闘力を喪失した」とみなし、指揮官の解任に至ったというわけだ。

 護衛総局本部党政治委員会は「どれほど普段の部隊の管理ができなければ、決められた時間に迅速に現場に出動できないほどになるのか」「虚弱患者が部隊の定員の半分になるのは、護衛総局に恥をかかせたも同然だ」などと、旅団長と政治委員を厳しく叱責したという。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 朝鮮人民軍は、平時から食糧輸送に大きな問題を抱えており、末端の兵士たちは常に飢えに苦しんでいる。食べ物欲しさに、周囲の民家や農場を襲撃することは、決して珍しいことではない。だが、超エリート部隊である護衛総局ですら、栄養失調が広がるほど、北朝鮮の食糧難が深刻ということだ。

 ただし、情報筋は、護衛総局の中でも115旅団はかなり冷遇されていると述べた。

「115旅団は、護衛総局所属と言えば聞こえはいいが、現場で苦しい仕事をする肉体労働者となんら変わりない。それなのに、一般の軍部隊より供給の質が悪く、兵士たちの足や腕はハエや蚊ほども細く、栄養失調に苦しめられている」

 情報筋はまた、護衛総局局の全部隊で発生した死者の中で、8割が115旅団所属が占めるという統計があるとし、護衛総局本部党政治委員会は、この責任も取らせる形で2人を解任すべきという結論に達したと述べた。

 同時に、115旅団の災害復旧現場への投入は保留し、まずは栄養失調などで現場に出動できない兵士たちを治療する事業を優先させよとの指示を下した。栄養失調で倒れる者だらけという状況を放置すれば、護衛総局の名誉に傷がつくという判断からだろう。これに伴い、自宅に戻っていた兵士たちは、護衛総局病院や保養所に送られ、治療を受けているとのことだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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