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処刑と飢えで死者続出…金正恩「コロナ都市封鎖」の冷酷無比

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は13日、国内で4月末から原因不明の発熱症状を見せる人が爆発的に増え、18万7千人余りが隔離されて治療を受けており、6人が死亡したと伝えた。北朝鮮では前日の朝鮮労働党政治局会議で、国内での新型コロナウイルス感染者発生を初めて確認。金正恩総書記は「全国の全ての市、郡で自分の地域を徹底的に封鎖」するよう指示した。

 実際のところ、北朝鮮では2020年の早い時期から、新型コロナ流行を疑わせる状況が見られていた。医療保健インフラの脆弱な北朝鮮はこれを体制の危機ととらえ、極端とも言える防疫体制を敷いてきた。その結果、むしろそうした防疫措置が原因で死亡する意図も続出した。

 デイリーNKの現地情報筋によれば、例えば2020年10月26日から都市封鎖(ロックダウン)された国境都市、慈江道(チャガンド)満浦(マンポ)の状況は次のようなものだった。

 同市では、中国との密輸に関わっていた人を中心に12人が呼吸困難の症状を見せ、市内の病院で死亡したことを受け、金正恩氏が封鎖を命令。同市は同年8月末から9月中旬に続き2度目の封鎖だった。当局は「予防のため」と発表したが、市民の間では、密輸品との接触で新型コロナウイルスに感染したとの噂が広まった。

 2度目の封鎖は、11月14日になってようやく解除されたが、その時の状況は次のようなものだった。

 まず、密輸に関わった税関職員と商人ら10人が逮捕され、国家転覆罪と殺人罪が適用された。多くが無期懲役となり、密輸の首謀者は公開処刑されたもようだ。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 情報筋が明らかにした、慈江道の非常防疫委員会に報告された集計によると、封鎖期間中にコロナの疑いで隔離施設に収容された人は320人で、症状が表れその後に死亡した人は107人に達した。

 それに以外にも医学的な調査が必要な対象者は別途隔離措置を受け、家の玄関には安全員(警察官)が「隔離」と書かれた紙を貼り付け、他の住民の接近を禁止した。

「満浦市内では、薪の切り出しや石炭の掘り出しなど越冬用品を調達する期間に封鎖され、市民は何もできず、キムジャン(キムチの大量漬け込み)ができていない世帯が半分を超えた」(情報筋)

 当局は、満浦市民1人あたり1日300グラム、10日分の食糧を配給したが、外出が一切できない封鎖期間は3週間におよび、全く量が足りなかった。また、孤児を収容する育児院、初等学院では、封鎖による食糧不足で10人が餓死するという痛ましい事件も起きた。

 北朝鮮では、日本のように簡単に食糧を調達することはできない。

 商店の数はごく限られ、あっても食料品の在庫などほとんどない。ごく稀なケースを除いてデリバリーの類がないのは言うまでもなく、地方の小都市ならなおさらだ。食うや食わずの生活をしている庶民に、食べ物を買い置く余裕などあるはずもない。

 前触れもなく都市封鎖が宣言されたら、その瞬間から飢餓との戦いが始まるのだ。しかも、苦しさに耐えかねず自宅から出たことが露見すれば重罪に問われる。処刑された人々も少なくない。

 市民の間では「餓死した人はもっといるはず」との噂が広まり、感染症の拡大を未然に防ぐための封鎖が、人を餓死に追い込んでいる状況に、もはや国も防疫機関も幹部も信じられないと不信感が広がった。

 中には、「山中に疎開してテントで寝泊まりし、草の根や木の実を食べて暮らしたほうがまだマシだ」という人もいたという。

 封鎖により、長く厳しい冬を乗り越えるために欠かせない薪と石炭、保存食であるキムチの調達ができなかったとあって、死者はさらに増えたと見られる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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