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【北朝鮮 最新映像】警察から逃げまどう「女性商人」たち

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮・恵山の市場(デイリーNK)

荷物を持って一斉に立ち上がり、不安げに何かを見守る女性たち。中には急いで逃げ出す人もいる。これは、中国国境に面した北朝鮮の両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)で撮られた動画だ。

撮影はおそらく、川向うの中国側から望遠レンズを使って行われたものと思われ、画質は良好ではないものの、人々の不安な表情はよく見て取れる。

女性たちは、公式に認められた市場の外の路上で露店を開き商売する「イナゴ商人」たちだ。

本来、商売をするには市場使用料を支払い、市場の売台(ワゴン)を借りることになっているが、それを払うだけの儲けがない商人や、支払いを嫌う商人は、市場周辺の路上で露店を開いている。取り締まり班が襲来すると、風呂敷に品物を包みあっという間に逃げ去る様子から「イナゴ商人」と呼ばれている。

当局は事実上の税金にあたる市場使用料の徴収のため、露店に対する取り締まりを強化している。動画は、取り締まりの開始直後に撮影されたものと思われる。

運悪く取り締まりにひっかかれば、商品は没収され、暴力を振るわれたり性的な関係を強要されることもある。ときには激しい抗議で対抗することもあるが、悲劇的な事件も起きている。

(参考記事:「私たちは性的なおもちゃ」被害女性たちの血のにじむ証言を読む

5月には、国内有数の規模を誇る清津(チョンジン)市の水南(スナム)市場の近くで、女性商人に乱暴を働く安全員(警察官)を、軍官(将校)を自称する男性が制止。逆切れした安全員と糾察隊員らが「軍人だからって何だ、なぜ業務を妨害するのか」と男性に殴る蹴るの暴行を加え、死亡させる事件も起きた。

一方、動画の中の女性たち全員がマスクを着用していることも確認できる。物資不足、経済難の中でも、マスク着用は定着しているようだ。

北朝鮮の非常防疫法は、55条でマスクの着用とソーシャル・ディスタンシングの維持を義務化し、59条で違反者に5000北朝鮮ウォン(約100円)の罰金に処すと定めている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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