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北朝鮮軍「瘦せこけた少佐たち」に絶望する地元住民

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の将兵(写真:ロイター/アフロ)

 昨年1月のコロナ鎖国以降、北朝鮮当局は国境警備を今までになく強化し、脱北と密輸を完全にブロックしようと躍起になっている。国境地帯の兵力まで増員したものの、うまくいかなかったため、1400キロに及ぶ中国との国境にコンクリート壁と高圧電流の流れる電線を設置するという、とてつもない計画をぶち上げた。

 ところが、コロナ鎖国による物資不足で、予定した朝鮮労働党創建日(10月10日)までの完成など夢のまた夢。空き缶と空き瓶を紐でぶら下げ、人が接近すると音がするという原始的な仕掛けを設置するに至っている。建設現場のうち、両江道(リャンガンド)の三水(サムス)郡と金正淑(キムジョンスク)郡の現状を、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

 現地では空き缶と空き瓶を使った仕掛けに加え、地元に多く生えているカラマツやクヌギの木を切って、X字型に組んだ障害物で接近を防ぐという、これまた原始的な手法が使われているという。

 このような作業に当たるのは、通常なら末端の兵士だが、この工事は地元に駐屯する第10軍団の少佐以上の軍官(将校)が行っているというのだ。その意図について情報筋は、「末端兵士の脱北防止のため」だと説明した。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

「今年の軍人に対する食糧供給は昨年よりさらにひどい。栄養失調問題が深刻で、国境付近での作業途中に脱北が発生しかねない点を考慮して、家族のいる軍官を作業に当たらせている」(情報筋)

 実際、国境警備のために増派された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の第7軍団、第11軍団(暴風軍団)の中からも脱北者が続出する事態となっている。彼らに見切りをつけた当局は、脱北と密輸を完璧に防ぐべくコンクリート壁の設置工事を始めたのだが、結局同様の事態に陥りかねない状況となってしまったのだ。

 まともな食事にありつけない北朝鮮から、国境の川さえ渡れば、普通に食べ物がある中国だ。我慢しろという方が無理な話である。結局、家族と言う名の「人質」がいる軍官に、工事を任せることになったということだ。

 その軍官すらも、栄養状態は決して良好とは言えない。そんな彼らを目の当たりにした現地住民らは「あんなのでも軍隊かと思うほど情けない」と嘲笑しているという。

 動員された少佐、中佐、いずれも栄養失調状態でやせこけており、「軍官のやつれようを見ると、一般の兵士の状態はもっとひどいだろう」と噂されている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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