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【内部映像】北朝鮮の女性兵士、苦役の夏…強制労働に性暴力も

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の女性兵士(写真:ロイター/アフロ)

7月中旬に北朝鮮軍の女性兵士らの様子を撮影したとされる複数の映像がYouTubeで公開され、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が特集を組んでいる。

映像は、何らかの工事現場や畑で作業を行う女性兵士たちの姿を撮影したものだ。暑い夏の日に、これといった装備もなく、大きくて重そうな石を運んだり、農作業を行ったりする様子はいかにも辛そうだ。

もっとも、軍隊での生活は多かれ少なかれキツイ作業を伴うものだろう。断片的な映像を見ただけでは、彼女らの境遇がどういったものであるかはわからない。

そこでRFAは、北朝鮮で兵役を経験した複数の脱北女性に証言を求め、映像から見て取れるものを解説している。彼女らによれば、映像が伝えているのは強制労働そのものであり、女性兵士が強いられている不条理の表れだという。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

北朝鮮の兵役期間は男性が7〜8年、女性は5年と世界最長だが、これでも大幅に短縮された結果である。その長い期間、兵士たちは賃金をいっさい支給されないまま、建設工事や農作業で酷使される。

安全対策の欠落した建設現場では死亡事故が多発し、特に女性兵士は様々な不条理にさらされる。RFAの取材に応じたある女性は、次のように振り返っている。

「北朝鮮の女性兵士には何の権利もありません。人権も保障されていません。北朝鮮で軍に志願する理由は(朝鮮労働党の)党員証を持つためですが、指揮官たちはそれと引き換えにワイロを要求し、性的暴行も加えます。それでも、告発することなどできません。そんなことをして生活除隊(不名誉除隊)でもさせられたら、それ以上の発展は望めないのです」

ちなみに以前、北朝鮮では男性のみが兵役の対象だったが、2019年4月からは女性も対象になり、女性兵士が急増しているとされる。

背景にあるのは少子化だ。

北朝鮮の男性は、誰もが国営企業や行政機関に配属され、出勤することが法的な義務となっている。しかしほとんどの職場では、ろくな給料がもらえない。一方、女性は必ずしも職場に属する必要はない。そのため女性が市場で働き、現金収入を得る。そのせいで出産、育児に割く時間的、経済的余裕がなくなる。また、子どもの教育費も過大な負担となる。

そして、多くの夫婦が子どもを持たない、持っても1人という選択に傾く。それが少子化を招き、ひいては軍の兵力補充に支障をきたす結果につながっているのだ。

しかし、若い女性を長期間にわたって軍に縛り付け、様々な不条理を経験させることは、いっそうの少子化を呼ぶかもしれない。北朝鮮の弱体化は、このような形でも進行しているのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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