日韓首脳会談の調整が不首尾となり、東京オリンピックの開幕に合わせた訪日を見送った韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だが、一時は本人も、五輪招致の夢を持っていた。北朝鮮の金正恩総書記との2018年の首脳会談で署名した平壌共同宣言には、2032年の五輪の共同招致に向けて協力するとの内容が盛り込まれていたのだ。

しかしその後、米朝関係や米韓関係が再び険悪化する中、国際オリンピック委員会(IOC)はオーストラリアのブリスベンを、同五輪開催地の単独候補として認定。21日に東京で行われる総会で正式決定する見込みだ。

もっとも、北朝鮮を取り巻く情勢が良好だったとしても、2032年五輪の南北共催が実現する可能性はほとんどなかった。公開処刑を頻繁に行い、その様子が衛星に捉えられている北朝鮮での五輪開催が、認められるはずはないのだ。

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ただそれ以前に、共同招致が具体化する可能性自体がそもそもゼロだった。韓国紙・中央日報が報じたところでは、2032年の南北共催に興味を示したIOCは数回、連絡を取ったが、北朝鮮側は「関心がない」のあっけないひと言で一蹴したという。

北朝鮮もまた、南北共催の話が具体化すれば、国際社会の視線が人権問題に向きかねないと憂慮したのではないか。だとすると、文在寅氏の提案は、金正恩氏にとって迷惑千万だったのかもしれない。

実際、五輪招致に向けた文在寅政権の動きに対しては韓国の国内外からの批判も強かった。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局副局長であるフィル・ロバートソン氏は米紙ワシントンポストの昨年1月18日付で、「北朝鮮に対する認識に関して、文大統領は『ラ・ラ・ランド』(ファンタジー映画)のような別世界に住んでいる。五輪共同開催提案は現在の政治的現実と完全にかけ離れた太陽政策的楽観主義の上に構築された巨大プロジェクトだ」と痛烈に批判している。

文在寅氏はまず、北朝鮮と五輪を共催できる日が来るとしたら、そこにどのような意味を持たせられるかを考えるべきだった。それは、北朝鮮の人権問題が劇的に改善した上で、その事実を世界に知らせる催しとすることであるはずだ。

残念ながら、そのような可能性が見えてくる日は遠いと言わざるを得ない。そのような厳しい現実を直視せず、「バラ色の未来」に執着する文在寅氏に、果たして南北統一を語る資格はあるのだろうか。