金正日の側近「一家全員を処刑」…金正恩政権 "誕生前夜" の惨劇

(写真:ロイター/アフロ)

共同通信は15日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記に直結する日本政府との秘密交渉役が数年前、体調不良を理由に連絡を絶っていたことが分かったと報じた。秘密交渉役は金正日前政権時代から日本との秘密協議を担当し、2002年の小泉訪朝実現に至る協議にも関わったという。

小泉訪朝実現の北朝鮮側の裏方と言えば、「ミスターX」こと柳敬(リュ・ギョン)国家安全保衛部(現国家保衛省)部長が有名だ。共同によれば、件の秘密交渉役は同氏の元部下で、「ミスターXが約10年前に失脚し後任となった」という。

柳氏の部下がその後も北朝鮮の権力機関で地位を維持し、日本との交渉役を担っていたというのは驚きだ。何故なら柳氏の失脚は、権力中枢での陰謀によるものだったからだ。韓国の李明博(イ・ミョンバク)元大統領が2015年2月に出版した回顧録には、次のような一節がある。

「2011年初め、アメリカと中国から驚くべき話を聞かされた。我々と接触した北朝鮮の高官が公開処刑されたというものだった」

この処刑された高官が、他ならぬ柳氏である。その後、柳氏本人のみならず一家全員が銃殺されたとの情報も伝えられた。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

柳氏は体制への忠誠心が厚く、金正日総書記から絶大な信頼を得ていたとされる。しかし、ある出来事を境にその運命は暗転した。

2010年12月5日、南北首脳会談実現のために特使としてソウルを訪問した柳氏は、李明博氏から面会を断られ、何の成果も出せないまま北朝鮮に帰国した。このとき、柳氏はソウル滞在を1日延長したが、帰国後に提出した報告書でその際の行き先をきちんと記載しなかったことが問題視されたとされる。

韓国の北朝鮮事情通が話す。

「糸を引いていたのは金正日の義弟の張成沢(チャン・ソンテク)だったはずだ。体制内での権力基盤を盤石にするため、党内のライバルを暗殺などの手口で次々に消していた張成沢は、次に保衛部に刃を向けた。保衛部のパワーが、金正恩氏の権力固めの過程で肥大しすぎたと見ていたのだろう」

柳氏は、米国のクリントン元大統領の訪朝を実現するなどして、保衛部で足場を固めたとされる。金正日氏は柳氏の実力を認め、張氏を含めた側近の動向を監視させていたようだ。

脱北した元外交官の高英煥(コ・ヨンファン)氏は、韓国メディアに次のように語っている。

「張成沢は国家安全保衛部を厄介に考えていた。柳敬が処刑され、禹東測(ウ・ドンチュク)保衛部第一副部長も自殺したことで、面倒な人間がいなくなった。これは張成沢と、妻の金慶喜(キム・ギョンヒ)が仕組んだ可能性がある」

禹東測氏は金正日氏の葬儀の際に棺を運んだ7人の中の1人だったが、2012年4月に張氏によって自殺に追いやられたと伝えられている。しかし張氏本人も2013年12月、金正恩氏によって処刑されるハメとなった。北朝鮮の権力内部は、まさに「一寸先は闇」なのだ。