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密室の性暴力の果てに…北朝鮮「コロナ隔離」下の秘密

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(平壌写真共同取材団)

昨年1月から国境の封鎖を続けている北朝鮮。自国民、外国人を問わず入国が認められないのはもちろんのこと、脱北後に中国で捕まり強制送還の対象となった人ですら、北朝鮮は入国を拒んでいる。

行き来ができないのは、中国に派遣された北朝鮮労働者とて同じだ。女性労働者たちは昨年来、ほぼ隔離された状態で、職場と寄宿舎を行き来するだけの生活を続けている。それなのにある女性が妊娠した事実が明らかになり、大騒ぎになった。一体どういうことなのだろうか。中国のデイリーNK情報筋が詳細を語った。

強制堕胎か

妊娠したのは、北朝鮮に接する遼寧省丹東のアパレル企業で働いている北朝鮮女性のAさん。

20代のAさんは、自らが妊娠したことに気づいていなかったが、お腹が膨らんできたのに気付いた同僚が、幹部に報告した。報告は北朝鮮領事館にまで上げられ、調査が始まった。

Aさんが務めるアパレル企業は、工場の建物の中に寄宿舎があり、外部の人と接触するのは難しい。また企業関係者も、コロナ対策として急用がない限りは工場に入って北朝鮮女性労働者と接触できないことになっていた。

そのことから、Aさんが北朝鮮の男性幹部に性暴力を受けたのではないかという憶測が流れたが、調査が進み、ついに真相が明らかになった。

Aさんを気に入った勤め先の中国人社長Bが、労働者を管理する北朝鮮の幹部Cに「会わせてほしい」と頼み込み、2000元(約3万2000円)を掴ませた。Aさんを工場の外に連れ出すことに成功したB社長。性的関係を持ち、Aさんは1回あたり1000元(約1万6000円)を受け取っていた。ただ、Aさんの同意があったのか、B社長やC幹部によって無理強いされたのかは詳らかでない。

Aさんは取り調べの後、通常業務に復帰しているが、コロナ後には帰国させられ処罰を受けるものと思われる。出産についてはどうなるかわからない。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

人身売買の被害に遭い北朝鮮に強制送還された後、保衛部(秘密警察)で「混血の子どもの出産は認めない」との理由で強制堕胎手術を受けさせられる事例が報告されているからだ。

今までも、北朝鮮レストランの従業員が、外貨稼ぎのノルマを達成するために、売春を行う事例はあったが、当局に報告された事例はほとんどなかったという。

北朝鮮当局は、性暴力をほう助した(あるいは売買春を斡旋した)形となったC幹部を即時解任。現在は保衛部(秘密警察)の監視下に置かれ、国境封鎖が解かれ次第、北朝鮮に帰国させられる見込みだ。重刑に処される可能性が高いと見られている。

「コロナで稼ぐのが難しくなった北朝鮮幹部が、楽に儲けられると思い、社長の提案にのってしまった。国境封鎖で滞在期間が長くなり、当局から要求される党資金(上納金)を稼ぐのが難しいため、事故が増えるしかない」(情報筋)

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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