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拷問を受け笑い出した女性…北朝鮮で続く「過酷捜査」の闇

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

韓国の警察庁は5日、1990年に釜山で起きた女性殺人事件の容疑者として逮捕され、有罪判決を受けて21年間服役後、再審で無罪が言い渡されたチェ・インチョルさん、チャン・ドンイクさんにに対して、謝罪文を発表した。

2人は出所後に、警察の拷問でウソの自白をさせられたと訴えた。大検察庁(最高検)の過去史委員会は、2018年7月から調査を行い、翌年4月に警察の拷問によるウソの自白と、検察のいい加減な捜査によるでっち上げだと発表した。そして今月4日、釜山高裁は再審で無罪判決を下した。

前近代から日本の植民地支配、独立後の軍事政権に至るまで当たり前のように行われてきた「国家による暴力」は、1987年の民主化以降も途絶えることがなかった。

それでも、国による過去の過ちの見直し、反省が進む韓国とは裏腹に、軍事境界線の北側の北朝鮮では、現在でも当たり前のように捜査機関による拷問が横行している。女性に対する「性拷問」のほか、秘密警察は拷問で虚偽の自白をさせた無実の死刑囚を黙らせるため、口に砂利を詰め、頬を串刺しにすることさえも厭わない。

(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為

最近の例を挙げると、先月28日に両江道(リャンガンド)保衛局(秘密警察)に逮捕された30代男性のキムさんと20代女性のハンさんに対するものだ。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、2人は国境を流れる鴨緑江を渡ろうとして、物陰に潜んでいた保衛局反探課(スパイ担当部署)の保衛員に逮捕された。

脱北の動機は不明だが、捜査官は、2人が当初から「スパイであり、韓国に行くために脱北した」と決めてかかり、否認する二人を逆さ吊りにしたり、棍棒で殴打したりするなど、拷問を加えた。

ハンさんは、突然笑いだしたり、泣き出したりするなど、拷問によるものと思われる精神異常をきたしているが、捜査官は何事もなかったかのように「いかなる任務を帯びて活動したのか、誰と接触したのか」と追及を続いているという。

現地では、保衛局が、最近の住民の動きを牽制するために、二人に脱北よりも罪の重いスパイ容疑をかけ、処刑または管理所(政治犯収容所)送りにするだろうとの見方がなされている。

「今年に入って、住民の間では脱北しようとする動きが多く現れている」(情報筋)

恵山では、昨年8月、11月に続き、先月29日午後5時から、3度目となる封鎖令(ロックダウン)が下され、物資不足、物価高騰で餓死者が出るなど、市民生活は極限状態に追い込まれつつある。命がけで密輸や脱北を行う人が続出するのは、当局が市民への支援をほとんど行っていないからだ。

韓国で現在、過去に行われた「国家による暴力」の真相追及が行われているが、北朝鮮の政府機関による人権侵害事例も、韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)が、「来たるべき日」に備えて、収集し、アーカイブ化を行っている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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