「金正恩ニュース」の時間帯に停電、発電所員ら絶体絶命

金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

北朝鮮の首都・平壌周辺にある5つの火力発電所のうち、最大規模を誇る北倉(プクチャン)火力発電所(発電量160万キロワット)。1971年にソ連の援助で建設され、現在5基の発電設備で、平壌の一部と平安南道(ピョンアンナムド)のほぼ全域に電力を供給している。

長年の電力難に苦しめられてきた北朝鮮だが、平壌だけは曲がりなりにも電力供給が行われてきた。しかし、最近になって停電が頻発し、1日に数時間しか電気が来ないこともある。そんな停電が、思わぬ大問題へと発展しかけた。

国営の朝鮮中央テレビは先月28日、金正恩党委員長が台風8号(バービー)で被害を受けた黄海南道(ファンヘナムド)を視察する様子を放送した。ところが、平安南道のデイリーNK内部情報筋によると、現地ではこの放送が、停電により見られない状態になったのだ。

北倉火力発電所は先月だけでも老朽化により14回も停電しているが、非常に運の悪いことに金正恩氏に関するニュースが放送される時間帯に停電が起きてしまったのだ。この問題は上部に報告された。

事故調査検閲分科(調査チーム)が現地に派遣され、調査を行った結果、発電所の設備は今すぐにでも交換が必要なほど老朽化しており、脱塩水装置にも欠陥があり、5台の大型変圧器がすべて焼け付いてしまったことが明らかになった。

当局は、政治的な問題と見なして、発電所のイルクン(幹部)や技術者の責任を追求しようとした。政治犯と見なされれば、処刑もあり得る。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

実は、発電所側は政府に対して老朽化した設備が必要だと何度も要求してきたのだが、返ってくるのは「自力更生の革命精神を発揮しよう」という精神論と、工夫して乗り切れという答えばかり。まさしくそれが元凶となったわけだが、当局が進んで自らの非を認めるわけがない。

ところが次のような理由で、この問題は「革命任務に対する無責任性」という比較的軽いレベルに取扱いが下げられた。

「住民のほとんどがソーラーパネルとバッテリーを所有しており、自家発電でテレビの視聴が可能だった」

これでは、住民が自助努力で電気を得て報道が見られたのだから問題ないと、電気供給という国の責任を投げ出したのも同然だ。

今回の件を受けて当局は、金日成主席、金正日総書記の銅像、革命歴史研究室、史跡地などは常に電気が通じていなければならないところでも、停電が起きていたことについても問題提起した。

民族の太陽である金日成氏関連の施設への電気供給は、一般家庭はもちろん、工場よりも重要視され、電気を途絶えさせることは政治的な問題になりかねない。国民の命や生活より銅像や肖像画などの方を大事に扱うのが、北朝鮮の体制だ。

下手すれば多くの人が政治犯収容所送りにされかねない状況だったが、事故と直接関係のあった技術課のイルクンなどごく一部が解任されるにとどまった。ほかの現場担当者は首の皮一枚でつながったが、発電設備がいつまた問題がを起こすかわからず、安心できない日々が続く。

今回、停電が問題になったのは、その地域が首都・平壌に及んだためで、他の地域で停電が日常的に起こり、むしろ送電されている時間の方が短いところもある。

例を挙げると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、朝鮮中央テレビが台風情報を詳しく伝えていることについて、このように吐き捨てた。

「台風の被害が多く発生したというが、(テレビでは)見られませんでした。北朝鮮の人で朝鮮中央テレビを見る人がどこにいるんですか。電気もないのにどこに行ってテレビを見ろというのですか」