Yahoo!ニュース

中国に売られた20歳女性、決死の脱出も北朝鮮で銃撃受け拘束

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(平壌写真共同取材団)

脱北し韓国で暮らしていた男性が、密かに北朝鮮に戻っていた事件から1ヶ月以上が過ぎた。北朝鮮政府は、男性が新型コロナウイルスに感染している疑いがあるとして、開城(ケソン)市を一時完全封鎖、全国的に防疫体制を強化するなど、過剰とも言える対応を行った。

しかし、その後も密再入国事件は後を絶たない。国境を流れる豆満江を渡り、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の穏城(オンソン)から密入国し、清津(チョンジン)の自宅に戻っていた男性が摘発される事件が起きたが、国境警備隊の幹部が勤務怠慢の責任を問われ、家族もろとも刑務所送りの厳しい処分を受けた。

3年にわたる性暴力

長さ1400キロに達し、人の目が届かないところも多い中朝国境を完全に封鎖することは非常に困難なのだ。8月24日にも、中国にいた女性が国境の川を超えて北朝鮮に戻ろうとしたところで逮捕される事件が起きた。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、24日の午前1時ごろ、中朝国境を流れる鴨緑江に、中国側から女性が飛び込んだ。対岸の北朝鮮の三池淵(サムジヨン)にいた国境警備隊員が発見、「こっちに来るな」と叫び続けたが、止まろうとしないため、警告射撃を行った。女性は気を失った状態で逮捕された。

今年20歳のその女性は、平安南道(ピョンアンナムド)の粛川(スクチョン)出身で、両親は既に亡くなっている。彼女は3年前、祖母と2人の弟を養うために、三池淵にブルーベリーの一種であるトゥルチュク(和名クロマメノキ)の実を取る仕事で三池淵にやって来た。現地の加工工場が高値で買い取ってくれるため、かなりの儲けになるのだ。

ところが、人身売買業者の魔の手にかかり、3万元(約46万2000円)で中国人男性に売り飛ばされてしまった。情報筋は詳細に触れていないが、働きに来た女性を「儲かる仕事がある」と騙すのは、業者の常套手段だ。

彼女は家に監禁され、3年にわたって性暴力を受け続けた。すきを見て逃げ出したが、道がわからなかったのだろう。売られてきた時のルートをたどり三池淵に戻ろうとしたところで逮捕された。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

彼女は中国から戻って来たというだけで、新型コロナウイルスに感染している可能性があるとみなされ、三池淵市保衛部(秘密警察)の独房で隔離されたままで取り調べを受けている。症状が出なければ1ヶ月後に両江道保衛局に身柄を移される予定だ。

ちなみに三池淵の川向う、中国・吉林省の衛生健康委員会の発表では、過去3ヶ月間新型コロナウイルスの新規感染者は報告されていない。

この件を受けて、北朝鮮当局は道内の商業都市・恵山(ヘサン)と三池淵(サムジヨン)に対して、新型コロナウイルス遮断のための全面封鎖措置を取ったと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

情報筋によると、朝鮮労働党中央委員会政治局は8月27日午前8時、党両江道委員会と三池淵市、恵山市委員会に対して、両市を同日午後12時から完全封鎖すると通達したという。ただ9月1日の時点で、朝鮮中央通信など北朝鮮国営メディアは、この件について報じていない。

北朝鮮当局が極度に過剰になっている理由の一つが、10月10日の朝鮮労働党創建75周年記念日だ。国内で感染が拡大し、祝賀行事ができない事態は絶対に避けなければならない。

党中央委員会は、8月25日からは公式、非公式を問わずすべての貿易を遮断するとの方針を中国にある北朝鮮大使館、領事館、貿易会社などに伝えているが、同様の命令は両江道でも下され、移動が禁止され、検問が強化されている。既に、午後9時から午前6時までの夜間通行禁止令、昼間には、公的業務と言えど移動する車両と人員に対する検閲を行っている。

完全封鎖された開城市に対しては、金正恩党委員長が支援物資を送ったが、両江道に対しては何もなく、住民は困窮しきっている。情報筋は「何もせずに水だけ飲んで家で(金日成主席と金正日総書記の)肖像画を見て忠誠を誓えとでも言うのか、最低限の救済策があってしかるべきではないか」との批判の声が住民から上がっていると伝えた。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事