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「このままでは餓死する」北朝鮮、新型コロナで動揺が拡大

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮当局は、自国に新型コロナウイルスは流入していないと繰り返しているが、現地からは、各地で死者、感染者が相次いで発生していると伝わってきている。

感染者が集中しているのは、中国と国境を接する新義州(シニジュ)、羅先(ラソン)、海外との往来が多い首都・平壌だが、新義州から300キロも離れた黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)でも死者2人、隔離患者7人が発生している。

公開処刑に頼り

これについてデイリーNKの北朝鮮内部情報筋は、当局が新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)と思しき症状を示した後に死亡した男性から感染が広がったと見ていると伝えた。

この男性は、新義州で家電製品、食料品、化粧品などを買い付け、海州に運んで売る卸売業を営んでいた。当局は、ウイルス拡大防止のために、移動禁止令を下したが、この男性はその後に新義州に行ってきたことが確認された。

これに対して、国境地域の住民を中心に当局の防疫体制に不満が高まっているが、当局は無理やり押さえつけて乗り切ろうとしていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、新型コロナウイルス対策で国境封鎖、国内の移動統制が行われているために、商売ができなくなったことによる生活苦を訴える人が増えていると伝えた。支援策がまったくないことへの不満を口にする人も多いという。

それが度を越したと判断した当局は、「不平不満を述べる者を見つけ出し、取り締まれ」という特別指示を司法機関に対して下した。政府も、新型コロナ対策により住民感情が不穏であることを認識し、強硬策で臨もうとしたようだ。

1990年代後半の未曽有の大飢饉「苦難の行軍」に際し、当時の最高指導者だった金正日総書記は犯罪者や不満分子(と決めつけられた人々)への公開処刑を繰り返し、恐怖政治で世論を抑え込もうとしたことがあった。金正恩政権も一昨年から、経済制裁の影響で悪化した治安を抑え込むため、一時低調になっていた公開処刑を活発化させている。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

数ヶ月前までは、国際社会の制裁下に置かれていても、密輸や商売でなんとか食べていける状況だったが、新型コロナ対策で国境が封鎖されたことで物価が高騰し、商売ができなくなったことで、1日3食も食べられない状況となっている。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、密輸で北朝鮮の中では豊かな暮らしをしていた地域住民が、国境を封鎖した当局に対して不満を噴出させていることを受け、当局が取り締まりを始めた。

地域住民は、生活のすべての面において中国への依存が激しすぎるため、国境が封鎖されると人々の暮らしが転落すると当局を批判しているというが、中国依存が激しいのは地理的な面を含めて致し方ない部分がある。

当局は、ウイルス拡散を防ぐとして、外出するな、集まるなという指示を出しているが、「おとなしく従っていたら餓死する」と大反発している。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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