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北朝鮮軍の「虚弱体質」を痛打した新型コロナウイルス

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏と軍の兵士たち(朝鮮中央通信)

北朝鮮が中朝国境を封鎖するなど、新型コロナウイルス感染症の流入阻止に総力を傾けている中で、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内でも流動人員の統制および防疫に関する取り組みが行われているという。

特に、体力の虚弱な兵士に対する監視が強められているとされるが、これは北朝鮮軍にとってきわめて深刻な問題だ。軍内では幹部の横流しなどのため、食糧が末端の兵士に十分に届いておらず、栄養失調がまん延しているとからだ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

デイリーNK軍消息筋によると、金正恩党委員長は1月25日、人民武力省に対して「単純な病原菌との闘争ではなく、戦闘力を強化し、わが国、わが祖国の富強繁栄のための愛国事業であるとの確固たる視点を持たなければならい」と言及しながら、必要な対策作りを指示した。

これ翌日の26日総参謀部作戦局、軍隊の国、後方局責任幹部(働き手)を中心に緊急会議を開催、この場で防疫など全軍的な対策事業を討議し、決定したという。

これを受け、まず軍医局は衛生防疫事業検疫員らのチームを各軍団に派遣した。将兵の健康と免疫状態を綿密にチェックするという計画を進めている。感染が疑われる症状が見つかった場合、直ちに隔離することにより、拡散を防止するという方針も決められた。

消息筋は「各部隊では医学的監視と検病検診を徹底的に進める計画」であるとし「特に免疫力が弱いか、虚弱と判断される軍人が見つかったら一時も目を離してはならないという指示も通達された」と語った。

問題は、「虚弱」と判断される兵士がどれくらいの数に上るかだ。あまりに多ければ、徹底的に監視することは難しいだろう。もしかしたら北朝鮮では、軍が最も感染の広がりやすい状況にあると言えるかもしれない。

また、監視だけしていれば良いというものではない。栄養を摂らせ、体力をつけさせることが何よりの対策になる。しかし、昨年の農業は不作、ただでさえ経済制裁で苦しい中、感染防止のため中国との貿易すら中断した現在の状況で、どのようにして大量の兵士に栄養を供給できるのか。

まだ、北朝鮮国内で感染者が見つかったとの報告はないが、すでに北朝鮮軍は新型コロナウイルスによる痛打を受けていると言えるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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