くず鉄でマンションを建てる北朝鮮の苦しい台所事情
日本では、日中戦争中の1938年に不足する金属類を賄うために、金属供出が呼びかけられた。家庭で使われている鍋釜などを供出せよというもので、1941年に制定された金属類回収令で強制の仕組みとなった。戦局が悪化するにつれ、寺の梵鐘や町の半鐘なども供出させられた。
そんな金属供出が今も行われているのが、北朝鮮だ。それも武器を作るためではなく、マンション建設に必要との理由からだ。ただでさえ生活が苦しいのに達成が困難なノルマを課せられた市民の間からは、当然のように不満の声が上がっていると、咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。
咸鏡南道の端川(タンチョン)で進められているマンション建設工事では、資材確保のために市民に対してくず鉄を集めるよう指示が下された。当初は市民1人あたり毎月3キロのくず鉄を集めることが求められていたが、最近になってそれが10キロに増やされた。
集めたくず鉄を、咸興(ハムン)にある龍城(リョンソン)機械連合企業所に収めれば、5対1の割合で計算し、鉄骨で返してもらえるという。龍城は民生用から軍需用に至るまで様々な製品を生産し、金正恩党委員長も現地指導するほどの工場だが、それでも国から予算を得られないため、その状況を打破するために、バーター取引を行っているということだろう。
端川の人口は約36万人。市民すべてが1人あたり10キロのくず鉄を集めると、720トンの鉄筋が得られる計算になる。しかし、これだけでは足りないようだ。つまり、くず鉄が集まっていないということだ。
そもそも物資が不足している北朝鮮で、毎月何キロものくず鉄を集めることそのものが至難の業だ。当局はノルマが達成できなければ、現金で収めることを求めているが、それだけでは社会的評価が下がる――つまり忠誠心が足りないと言われる可能性がある。そのため現物で収めるために、くず鉄を市場で購入することになる。ただでさえ数少ないくず鉄が売買されれば、相場は徐々に上昇するだろう。
また、くず鉄が盗まれる被害が相次いだり、くず鉄を巡ってケンカが起きたりするなど、社会的にも様々な弊害がある。それ以前に、学校の生徒達は午後の授業を取りやめにして、担任の教師に引率されて夜遅くまでくず鉄拾いをさせられているという。
そもそもなぜこんな状況になっているのか?
鉱山の町である端川だが、おりからの経済制裁により産出した鉱物が輸出できなくなったことで、配給が止まり、人々は苦しい生活を強いられている。それは、地方政府の台所事情も同じだ。だからといって、従来の計画を止めるわけにはいかず、市民から搾り取ってマンション建設を強行しているというわけだ。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)
そんな状況のくず鉄集めに、不満の声が上がらないはずがない。
情報筋は「食べるのに苦しい状況で、くず鉄10キロを集めるなんて容易なはずがない。マンションの部屋をもらえるわけでもないのにカネを出せとはありえない。子どもたちも夜遅くまでくず鉄を集めさせられているのに、住民から良い言葉が出るわけがない」と語った。