「予告なしのダム放水」で村々が消滅…北朝鮮のありえない防災対策
防災インフラが極めて脆弱な北朝鮮では、毎年のように災害により多くの人命が失われている。
2016年8月末に北朝鮮北東部を襲った台風10号(ライオンロック)。当局は、大雨で崩壊の危機に瀕したダムを守るために、予告なしで放水を始めた。豆満江やその支流の流域で60以上の村、国境警備隊の哨所(監視塔)などが跡形もなく消え去った。公式発表でも死者133人、被災者は7万人近くに及ぶ大水害となった。
(参考記事:「あんた達のせいで皆死んだ」住民見殺しで金正恩体制の権威失墜)
まともな警報システムもなければ、堤防はあっても非常に心もとない。雨風に強い避難場所も、被災者用の物資の備蓄もない。そんな状況での災害への備えは「心構え」くらいしかないのだ。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1日、「梅雨時の対策を徹底的に立てよう」との社説を掲載し、「気まぐれな天気を見ると、わが国にも洪水と強い雨風が押し寄せないとは断言できない」とし、「かつての羅先(ラソン)市と咸鏡北道(ハムギョンブクト)北部地区が受けた洪水被害は、梅雨の対策を徹底的に立てることがいかに大切かを深く刻み込んでいる」と主張した。
防災に必要な設備、資材をあらかじめ確保し、農業、鉱業、発電、鉄道などすべての部門が天気予報に注意を払い、対策を徹底するように呼びかけた。
農繁期を迎えた農場が、農業資材すら確保できない状況に陥っているというのに、防災用の資材確保はさらに困難だろう。
ちなみにこの社説には、現地で「コピペ疑惑」が浮上している。
労働新聞は昨年6月29日に「梅雨時の被害防止対策を徹底的に立てよう」という社説を掲載した。デイリーNKは、今年と昨年の防災社説を比較、分析した。すると、文章がほぼそっくり、または全く同じというところが5ヶ所発見できた。
以下は昨年(上)と今年(下)の社説の比較だ。
(1)
【昨年】各地の農村では力量を総集中し水路を質的に整理し、排水揚水機をはじめとした溜まり水を排水する施設に対する整備補修をきちんとしなければならない。
【今年】各地の農村では力量を総集中し水路を質的に整理し、雨水が多く溜まるところに用水設備を集中配置しなければならない。
(2)
【昨年】畜産部門では家畜のおりと餌加工基地、餌倉庫などが洪水の被害を受けないように水路の掃除をきちんと行って餌用の草の収穫と保管を技術的要求に応じて行い、梅雨時に発生する様々な家畜病を予防しなければならない。
【今年】畜産部門では家畜のおりと餌加工基地、餌倉庫などが洪水の被害を受けないように水路の掃除をきちんと行って餌用の草の収穫と保管を技術的要求に応じて行わなければならない。特に各種疾病が発生しないように予防対策を講究しなければならない。
(3)
【昨年】水産部門では、高潮と台風予報を迅速に知らせる体系を徹底的に立てて、人命被害と船、漁具の損失がないようにしなければならない。
【今年】水産部門では、高潮と台風予報を迅速に知らせる体系を徹底的に立てて、人命被害と船、漁具の損失がないようにしなければならない。
5ヶ所にわたるほぼ同じ文章。偶然の一致と考えるには無理がある。
もちろん、すべてがコピペというわけではない。例えば、今年の社説には、昨年の社説にはなかった次のような文章が含まれている。
「勾配がきつい鉄道区間と山崩れが起こりうる箇所に対する補強対策を綿密に立てなければならない」
「任意の状況に即時対応できるように万端の非常動員準備をしなければならない」
これは、昨年8月に台風19号(ソーリック)による被害を踏まえてのものだろう。この台風は朝鮮半島に上陸後、北朝鮮の東海岸南部、元山(ウォンサン)一帯に豪雨を降らせ、咸鏡南道(ハムギョンナムド)文川(ムンチョン)では600ミリの降雨量を記録した。
現地で被災者支援を行っている国際赤十字によると、死者76人、行方不明者75人、6万人の被災者が発生する大災害となった。ちなみに、大きな被害が懸念されていた韓国では、比較的小さな被害に留まった。